犬狼詩集

  21

造形のためには純白の小麦粉をこね
食物のためには塩味のする赤土をこね
冷たい夜は愛の不在とともにやりすごす
きみは永久に河原に住んで
五月にも十一月にも半裸でねむるのか
荒々しい人生だがしずかな火が燃えている
きみやおれには都市からの追放の宣告も意味がない
あるがままの貧しさをもって自分の体に
木を植えよう林を植えよう森を植えよう
そこにあるとき鳥と魚が集いはじめる
それから未来が回帰するように
肌の上を月時計の淡い影が回転し
ゆっくりと老いることと若返りを同時に体験する
カリオンが響く、リカオンが吠える
その音と声がひとつになる
朝がくる、夜がくる、朝がくる


  22

傑作を作るといって故郷と恋人を捨てて
ローマに行った彫刻家の話をリルケが書いていた
何かいやな予感にとらわれて
彼は故郷に帰り棺の中の恋人を像に刻む
それが彫刻家の唯一の傑作だった
だが写実が唯一の規則でないのと同様
ローマと故郷の差異は空間にはないと私は思う
ある意味で彼はたしかにローマに住みついた
四つのローマにしか行くことができなかったのだ
北に行けばローマ
東に行けばローマ
南に行けばローマ
西に行けばローマ
ローマを逃れることは彼にはできなかった
そしてローマは苦悩の首都
すべての完璧な薔薇がそこでは石になる