2月13日から22日まで、インドネシア、ジョグジャカルタ市のカリ・チョデ(チョデ川、カリは川の意味)流域で行われていたAPIリージョナル・プロジェクトというのに参加していた。このプロジェクトは、日本財団がアジア5カ国に支給しているAPIフェローシップを受給した人たちが5カ国それぞれで作り上げるプロジェクトで、「人と生態系のバランスに対するコミュニティ・ベースのイニシアチブ」が共通テーマになり、とくに「水」がキーワードになっている。このプロジェクトが企画されたときには想定外だったのだが、ジョグジャカルタでは昨年11月にムラピ山が噴火し、さらにその火山泥流が雨期で増水した川に流れ込んで洪水が起こり...という状態になったので、チョデ川流域の汚染問題の視察という当初の予定以外に、被災地としての実態も視察することになった。
同じジャワ島の古都と言っても、私が以前留学していたソロとジョグジャはいろんな面で違う。ジョグジャでは南北の軸線が非常に重視される。北端のムラピ山と南のパラントゥリティス海岸を結んだ南北の軸線の真中にジョグジャカルタ王宮があり、さらにその線上に、インドネシアで最初の総合大学・ガジャマダも、マリオボロ通りの起点になるトゥグ(記念碑)もある。そのムラピ山の裾野を水源とする川のうち3つがジョグジャ市内を通っていて、中でもカリ・チョデはこの南北の軸に沿って、つまり都市の心臓部を貫通して流れているので、特に重要な川なのだと地元の人は言う。ソロ王家の場合は、南北軸ではなくて四方位を重視する。ソロでもムラピ山にはその四神の1人が棲むと見なされているけれど、ソロではムラピ山は西の山になっている(ソロはジョグジャより東にあるから)。さらに、ソロを代表するソロ川(ブンガワン・ソロ)は、ソロ市を囲むように流れていて、ソロにはジョグジャのような強力な軸線がない、という気がする。
このプロジェクトでは、1日、午前中にムラピ山に行ってカリ・チョデの水源(ただしその辺りではカリ・ボヨン=ボヨン川と呼ぶ、ムラピ山頂から6kmくらいの地点)を見、火山泥流で壊滅したカリ・クニン国立公園で植林をし、昼からパラントゥリティスに行くという日があった。ただし、私自身は別の用事があって、パラントゥリティスには行っていない。
市内のカリ・チョデ流域でも、火山泥流で川床が1.5mも上昇したと言う。ここ上流では、火山泥流の奔流に地面や岩肌が削られた跡がくっきりと見え、泥流に当たって一気に炭化した木片が見つかり、明らかに山の石とは違う感触の石がごろごろ転がっている。間近に煙を吐くムラピ山が見える。三途の川というのを少し連想する。削られた崖の上の端っこに、ぎりぎり建っている家が、下から見える。今、泥流が押し寄せたら、あの家も崩落し、私たちも一気に呑み込まれてしまうのだろう...。APIスタッフの1人が、「日本でなら、この状態ではまだ立入禁止にすると思うけれど...」と言う。確かにそうだ。
川の水源とは言っても、この辺りでは水は地下を流れているので見えないという。けれど、どんどん先へ進んでいくと、地面を這うように水がチロチロと流れて来る。さらにさかのぼると、水が何か所からか湧き出している所に行き当たる。この辺りでは足首がつかるくらいまでの水量があって、湧き出す水流の強さに、小石がコロコロとリズミカルに音を立てながら流されていくのが見える。ささやくような、軽やかな音。ここまで、犬も歩かないのではないかと思われるような狭くて急な道を歩いてきて、へとへとになっていたけれど、この音が聞けただけでも来た甲斐があった。バリ島で見られる、風でときどきカラカラと音を立てるアンクルンに少し似ている気もするし、風葬された人骨が風に吹かれたらこんな音を立てるのかな、とも思わせる音だった。
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と、ここまで書いてきて、時間切れになりました。話はまだ上流なので、中流のカリ・チョデ流域の話の続きはまた来月に...。