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「全体」とは言葉が生む幻想にすぎないだろう
われわれが経験するのは「個別」の一回性だけ
一個であり一回であることの耐え難さに
それでもよく耐えるのは虫の崇高な勇気だ
全体を知らず、世界を語らず
ただ地表に散らばり、それぞれの地点で
生きてきた、生きてゆくつもりだった
ひとつの花にもぐりこむマルハナバチとともに
朽ち木のうろに隠れる大きな鍬形とともに
あるいは川のような勤勉な行列を作る
まっくろな頭をした蟻の群れとともに
日々おなじ行動をつづけてゆくことが
かれらとわれわれに共有された誇りを与える
われわれの上には語り得ない無限、空がある
かれらとわれわれは重力に捉われながら
空と地のこの一方向性を敢然と受け入れる
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詩に語れるのは恒久だけ
詩に語れるのは無常だけ
だが詩はどうやってもそのつどひとつの視点しか提供できないので
その恒久も無常も悲しいほど小さい
それでもその仮構されたひとつの視点が鏃のように働いて
それを読む者に必要な飛行を経験させることがある
Deus meu deus (神よ、わが神よ)
神話は現実から十分な距離をおけるだけ
それだけridiculousでなくてはならない
だがどんな距離をとれというのだ、この目が見る光景から
この足が初めて踏んだ新たな土地の表層から
想像力が現実を凌駕したことなど一度もなかった
想像力とは一枚のぼやけたスナップショット
周囲のすべての広大な脅威を
魚の鱗一枚にまで縮小してしまう
その鱗を砂に埋めろ
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広大な砂の土地が出現した
歴史がひき剥がされた地表に
非情な悠久が帰ってきた
名前を失ったすべての土地がボンバルディアと呼ばれる
だが正確にはそこはアトピア
無根拠な同心円が引かれた太陽の土地だ
でもその太陽は貧弱でスキャンダラスな偽物で
偽物らしくいかにも壊れやすい
なんだボール紙でできた月以下じゃないか
水に濡れればもう使い物にならない
のみならず太陽を冷やした汚れた水たまりは
あらゆる生命を過剰な霜のように傷つける
山川草木を透明な炎で焼き
すべての鳥獣虫魚の遺伝子に失墜を強要する
貧弱なる偽物の卑小な太陽よ、おまえはもうしずまれ
私たちの母である太陽がくれた浄土をこれ以上汚すな
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「森は海の恋人」と男は口癖のようにいっていた
植林により回復された原生の広葉樹の森が
ゆたかな養分を含んだ土壌を作り上げ
ひとしきり降った雨は味わい深い流れとなって
海にむかう、その海で、深いリアスの岸辺で
濃厚な味わいの牡蠣がよく育つのだ
その循環の全体を見渡すとき
海の人間が毎年山に出かけて
苗木を植え森を励ますのは当然の仕事
水系の思想だ、水系の生命をまるごと把握しよう
海は森が育ててくれるもの
そして海辺が破壊された今も
川は流れる、海へ、海へ
「流れる」ということ自体が川の最大のメッセージで
その気持ちはどんなとき何があっても変わらない
さあ、海、この水を飲んで、山の土を味わって