私は中学の時以来鍼灸にお世話になってきたという肩凝り持ちなので、ジャワでの留学・調査でなにより大事なのが、マッサージの類を受けられる場所を探し出すことなのだ。というわけで今月は、私が今までジャワで遭遇したマッサージについて書いてみたい。
●ウルット
インドネシア語でマッサージのことは一般にピジットpijitという。皮膚に対して垂直に押すのがメインなので「指圧」に近いと思う(「指圧」の厳密な定義は知らないけど)。ウルットurutという語もある。これは垂直に押すというより、筋を水平に押して一本一本位置を整えていく感じだ。今風の設備の所では、単にオイル・マッサージのことをウルットと言っているみたいだが、私がソロで見聞きし体験したウルットというのは、足の筋を違えたり、ねんざしたりした人のための治療で、ウルット治療を専門にする人がして、ピジット・マッサージ師とは一線を画していた。
私が以前見たウルットというのは、チウというアルコール度数90%くらいの酒を患部の足や手に吹き付け、ご飯粒をつけてそれを伸ばすようにして筋を整えていくというやり方だった。チウは飲料用アルコールではなくて(これを飲む酔っ払いもいるが...)、治療用だ。チウと言えばウルットという観念は、少なくとも私の周りにいたジャワ人には一般的なものだったと思う。と言った早々でなんだが、私が受けたウルットではチウを塗らなかった。私は2007年の公演1週間前に右足を捻挫してしまい、当時行きつけの鍼灸師さんにウルットをしてもらったのだが、この人は自分で木を削って施術棒のようなものを作っていた。足には何も塗らず、その棒を足の筋に当てて、ゆっくりと筋を元の位置に押し戻すようにしてゆく。この棒は指よりも細いので、微妙な操作が可能なのだった。この治療を1回受けて、確かに筋の位置が戻ったと自覚でき、痛みが激減したことを覚えている。
●クロック
ピジットやウルットはお金を払って他人にやってもらうものだが、家族や友人間でお互い施術し合うのがクロックkerok/クロッアンkerokanだ。これはマスック・アンギンmasukangin(アンギン=風が体内に入ること、風邪をひくこと)したときにする。首から背中にかけて、バルサム(タイガーバームの類)を塗って、骨や筋に沿ってコインでこすっていくと、アンギンが入った場所が赤くなるというもの。
余談だが、この時のコインには旧100ルピア硬貨が具合がよくて、ジャワの人たちはこれを使っていた。大きくて薄く、肌当たりがいいのだ。今は流通していないので、代わりに何を使っているのだろう?私はクロックのためにこの旧硬貨を何枚か取ってある。昔、ピジットの後でクロックもしてくれたおばさんは、クロック用にオランダ時代のコインを使っていた。100ルピアコインより大きくて立派だった。また、レンズをはめていない虫眼鏡のような形をした器具を使っていた人もいる。この器具は市販されているが、私には100ルピア硬貨の使い勝手が良かった。
話を元に戻す。私は自分でクロックするが、これは体がだるいとき、風邪をひいたときにかなり効果的だ。私はクロックした後に39度以上の熱が一気に37度くらいまで下がった経験がある。友達も同様のことを言っていた。ただしそれも熱の種類によるみたいで、熱が下がらないこともある。コインでこすらなくても、手で揉むだけでも患部の皮膚は赤くなる。アンギンが入るなどと言うと呪術めいて聞こえるかもしれないが、クロックの話を日本で鍼灸師さんにしたら、原理的には乾布摩擦や小児鍼と同じだから、それは効果的だろうと言われた。これらは予防的に行うもので、クロックは風邪をひいてから行うという違いはあるけど、確かに皮膚を刺激するという点では同じだ。
このクロック、都会の若者はあまりしなくなっているらしい。ジャカルタの友達に「えー、michiはまだやってるの?」と驚かれた経験がある。「昔、おばあさんがやっているのを見たことはあるけど...」と言われて、がっくり。ソロやジョグジャではまだまだ一般的だが、格好悪いとか古臭いとか、田舎的だとかのイメージがあるのかもしれない。
●リフレクソロジー(反射区治療)
インドネシアでも、日本のようにフランチャイズ志向の足裏マッサージ店が急速に普及してきているのだが、そういうお店はおいといて、ここでは反射区を刺激するという意味でのリフレクソロジーをやっている所、人を紹介する。患部を直接刺激するわけではないけれど、患部から離れた別の部位を刺激すると、それに対応する患部も直るというのが反射区治療だ。
ソロで私がよく行っていた足裏マッサージ店は足裏専門で、他のマッサージメニューはない。足裏、甲、足首から膝裏まで、1時間半かけて徹底的にマッサージしてくれる。足の指も、一本一本、一節一節やってくれて、ここまで丁寧にやってくれるお店にはいまだかつて出あったことがない。カルテもあって、終了後、身体のどこが悪かったか施術者が書き込んでいる。ここで足を揉んでもらうと、足が暖かくなり、軽くなり、そしてオナラがよく出て、気分が爽快になる。オーナーは華人系で客層も華人系が多いが、一般のジャワ人も多い。華人系の人たちは夫婦、恋人、親子、友達同士など連れ立って来ることが多いのが特徴だ。
足裏ではなく、足の膝から足首までの間(脚の部分ですね)を刺激するというのもある。この治療に特に名前があったかどうか、覚えていない。私は2000年か2001年頃に一度受けたことがあるのだが、それ以前からそういう治療があるという話は聞いていた。施術者は脚の各所を素早くつまみ弾いていく。それで痛い部分があると、そこに対応する内臓なりが悪いということになるのだが、どこをつままれても痛かったというのが正直なところだ。その治療で良くなったかどうかも、私にはよく分からなかった。私が施術してもらったA氏というのは、ソロではこの技法で有名な人らしく、結構えらい人達も通ってきているみたいなことを後日別のところから聞いたが...
●刺激療法?
ジャカルタの外れにある、とあるモールにあるマッサージ院で受けた治療。普通のマッサージのつもりで寝台にうつぶせに寝たところ、いきなり、ベッドのマットをはたくもの(インドネシアでは80cmくらいの細い籐の棒?ひご?を数十本、ささら状に束ねたものでマットをはたく。)で、足から背中にかけて順にバシッ、バシッとはたかれた。その後普通に揉んでくれたが、まさか、はたかれるとは思っていなかったので、驚いた。これも伝統的な療法で、邪気を体内から追い払っていたのだろうか...?ともかく、刺激を受けたせいか、それなりにすっきりした記憶はある。