オトメンと指を差されて(39)

長くお世話になった京都をついに離れることとなりました。浪人生の頃からなので、ええと、2001年――不穏な21世紀の始まり――ですから、およそ10年。もちろんそのあいだには色々とあったわけなのですが、特筆すべきは、あるいは特筆することがないがゆえ、とも言い換えられますが、(スーパーを除いて)とうとう〈行きつけ〉なるものができなかった、ということでしょう。

これはおそらく私の性格に起因するもので、そもそも自炊するので外食をほとんどしないことなどもあったりするのでしょうが、いつもふらふらふわふわしていると申しましょうか、目に付いたお店に入って食べたり物を買ったりすることが多く、そのためいつも違うお店に行くことになるのです。もう一度そのお店へうかがうにしても、たいてい半年か一年か間隔があいたりしますので、もったいないことに、いわゆるポイントカードなるものがまったく意味をなさないのであります。

なので、困る質問といえば「いつもどこで物(服や小物やスイーツなどなど)を買ってるの?」とか「行きつけのところにつれていってよ」といったものになりまして、それに対しては「いろいろ......かな」などとごまかしたり「う〜ん」などと悩む羽目になるというものです。

いつも一見さんであるわけですね。

こんなに京都にそぐわない人物であっていいのかしらとも思えるほどですが、基本的にはにこにこしていて害のない客なので、結局のところ私は京都どころかあちこちのお店で誰にも顔を覚えられていないと思うのです。どこのお店にとっても、ふと現れて去っていく何でもないストレンジャーであるわけですね。まあでも、それは私が(おこがましいことではありますが)お店を評価する基準のひとつでもあります。

つまり、ふらりとやってきたにこにこ顔の人畜無害な相手に対して、そのお店がどう対応するかと申しましょうか、そういったときの初対面の印象といったものをいつでも大事にしたいのです。すなわち、私も社交的であるからには、人にお勧めのお店を紹介することがあるのですが、そのとき出すのは、だいたいがそういうファーストインプレッションの良かった店なのですね。

当たり前ですが、私に紹介された人もやはり、ふらりと初めて訪れるわけですから、私なんぞにもよく接してくれたお店ならば、きっとその人にも気持ちよく応対してくれるであろう、という推測が働くわけですね。もちろんお店というものは常連さんに親しみを抱いてサービスしたりするのですが、近江の人間としては、異人に対しての歓待というものを、個人的にはより大事に見たいのですね。

なんと言いますか、私は閉鎖的なものに生理的な気持ち悪さを抱くらしく、たいへん申し訳ないことではありながら、この10年のあいだに受けた会員制のあれやこれやのお誘いをその都度さまざまに考えたあげく、お断り申し上げて参りました。同じように、誰かのご紹介であらかじめ話をつけて、という形での来店も、なんやかや理由をつけて、行かなかったというパターンが非常に多いです。(ちなみに誰かの付き添いという形でのお誘いは、ほとんど受けています。もちろん、おすすめされたお店についてもちゃんと行きます。)

そんなわけで、ということでもないのでしょうが、私にとっては初対面の人も、昨日会った人も、一年前に会った人も、十年前に会った人も、今日会ったからといって、接し方に大きな違いはありません。ところや人や場面によって、あんまり変わらない、と言いましょうか。というよりも、差を付けるのがちょっと嫌なのかも。礼儀があるじゃないか、と言う人もあるでしょうが、たいていいつも品よくあろうとしているので、親しい人に対してもそうじゃない人にも、だいたい私は丁寧だと思います。(口調が表面的に変わるくらい、かな。恩や義理のある方に対しては別の意味で違いますけれども。)

たまに、「どうしていつもそんなに丁寧なのか、優しいのか(?)」と聞かれるのですが、自分ではあんまり意識していないのですよね。それはたぶん、突き詰めれば、いつどこで誰と出会っても、相手を〈歓待すべき他人〉だと思っているからなんではないでしょうか。もちろん、相手の態度にもよりますし、お人好しではないつもりではありますが。

万事がこんな調子ですから、他人からしてみれば、私はつかまえづらい人であるようです。相手を特別と思いたがる・特別にしたがる人(あるいは自分を特別にしてほしい人)にとっては、どこまでもやりづらい人であるでしょうし、お誘いという側面では、声をかけられたらそれなりに顔を出すけれども、それ以外のときはいつもふらりふわりしてますから、あえてつなぎとめないとすぐどこかへ行ってしまいますし、ある種の所有欲を満たすには、かなり不適な対象でしょう。八方美人、というわけでもないのですが。

あ、いや、別に〈みんなの××〉みたいなのを目指しているわけではないですよ、その。