メランコリア一匹

詩が好き
はメランコリアの大好物だ
歌が好き
もちょっと美味しいさかなになる
この胸の細胞壁にも
ぬくぬくと大きなやつが一匹、巣食っている
今日もつやつやと元気なこと

つきあいは 
ものごころついてからだから
ずいぶんになる
したたかな大喰らいで
くる日もくる日も
胸の内壁をちくちくと噛みちぎり 
腹くちくしては でっかいいびきをかく 
寝相もわるい

空が垂れ込める曇天の秋の日は
このメランコリア
小躍りしながら這い出してきて
のどを圧迫し 声帯をゆさぶり 
宿主が発しようとすることばを
さみだれ式のかすれた泣き声に変える
それは昨夜、老母からかかってきた
電話のせいではない

今朝はあめ 
心にしみる冷たい雨が
あばれるメランコリアの急所を突く
ささくれも撫でつけられ なだめられ 
ポルトガル語の歌なんか聴かせてやれば
しょんぼり身をまるくしてうとうとする

世界中に仲間がいるメランコリアは 
友人にはことかかない
だってほら
きみも一匹、飼っているだろ
こんな詩を読んでいるんだもの
さあ 仕事にもどろうか