ケンタック(その1)

荘司和子訳

わたしには孤独癖がある。どのような状態、どのような状況にいるときでも、こころの奥深くに孤独がある。孤独がわたしの最終最良の友なのだ。初めであろうと終わりであろうと。たいていの場合わたしの孤独に寄り添ってその一部になっているのは夢想することだ。何の実在感もない、ただよっているような夢想である。身の毛のよだつような恐ろしい悪夢のようなものであることもしばしばだ。だからといってわたしがそれについて気にしたり、誰かに話したりしたことはない。ただこころの中にしまいこんでおくだけで、時の流れが記憶を消していく。ちょうど風や日の光が木の皮、枯葉を地上に落とすと、それが積み重なっていき最後には土になっていくように。

次から次へと旅をしていたことからか、わたしに浮かんでくるさまざまな夢想はとりとめもない画像だ。いろいろな人びとの名前、声、顔も混乱している。時には名前もよくわからない人たちがあっちにこっちに現れる。あるときは北部の国境にいるようだったり、どうかして南部のようだったり、西部だったり東部だったりで、さて、これは何なのだ、というような。

「ここは何というところなのかい?」わたしは隣にいる見ず知らずの男に訊いた。知りたかったというだけの理由で。たまたま茶色くなった歯をのぞかせてわずかに微笑んだように見えたからかもしれない。痩せているが日に焼けて頑丈そうな男で年齢不詳だった。

「ケンタック」
わたしの耳がおかしいのではない。その男はこのように発音したのだ。なんとなくケンタッキーという外国の地名に聞こえたような気もしたが、そうでもなかった。
「何だって?」
2度目の質問をしながらわたしは耳をそばだてた。

(続く)