上映時間を間違えて

上映時間を間違えて、予定と違う映画を見ることになった。窓口で間違いに気づいた時には上映5分前で、これも何かの縁と見ることにした。

「ツレがうつになりまして。」(佐々部清監督/2011年)、人気コミックエッセイを映画化した作品だ。NHKの大河ドラマ「篤姫」で夫婦役を演じた宮崎あおいと堺雅人が再びコンビを組み、原作も評判になったこともあって、月曜日午後1番の上映は意外と多くのお客さんを迎えていた。少々難解でも心を遠くに連れて行ってくれることを期待して名画座に行く。そういう映画ではなかったけれど、ちいさくキラリと光る、温かな後味が残った。客席はたびたび笑いの渦に包まれ、そしてたくさんの人が涙をこぼしているようだった。もちろん私も、主人公にもらい泣きした。

夫のことを「ツレ」と呼んでいることからも分かるように、主人公達は少し風変わりな夫婦だ。ハルさん(原作者の細川さん自身)は世間一般の「奥さん像」というものから少し自由で、その分、夫の病気に対しても独特の反応をして、それが時には笑いを呼び起こす。ツレのうつ病という深刻な問題に対してもハルさんは子どものようにあどけない反応をして、それは時に常識やぶりであり、見るものは驚きとともに思わず笑ってしまうということなのだろう。2人の世間からのほんの少しの自由さ、そのずれが引き起こすユーモアがうつ病という深刻なテーマに明るさをもたらしていると思った。そして偏見にとらわれずに「ツレガうつになりまして。」と自然体で言えること、そのことがまず多くの人の共感を得たのだろうと思う。この原作の良さをそのまま活かすことに、映画は成功していると思った。

大事なことは本当に少ない。大事なこと、それは例えば「病気になったツレを見捨てずに、いっしょに居続けられるのか」ということだ。仕事ができなくなったら去らなければならない会社の世界、割れずに残って骨董品になった薄荷水のビン、じっと動かないように見えるイグアナ、それらの姿を描きながら、この問いが静かに差し出される。「ツレがうつになりまして。」は複雑でも難解でもないけれど、シンプルに大事なものを描いていて温かな印象を残した。