中東のお酒事情

毎年2月には、日本の医療関係者とイラク医師らが、イラクのアルビルに集まり会議をする。この一年は、震災の影響でイラク支援が滞ったことも事実で、引き続き12年度も資金集めなど厳しい状況が続きそうだ。日本の医療チームの働きに期待したいところだが、みんな、ボランティアで関わってくれているので、モチベーションを維持するのが大変だ。

そこで、「酒」。わが日本チームはのんべぃが多いので、酒の調達は必須だ。アルビルのアンカワという地域はキリスト教徒が多く住んでいるので、酒が買えるし、バーもある。最終日に残った医者と看護師をつれて、接待することになった。(といっても、割勘)しかし、今まで滞在していたスタッフや知り合いの日本人もいなくなって、僕もあまりアルビルには詳しくないので、彼らをどこに連れて行っていいものやらわからない。

タクシーでアンカワにいくも、電気事情があまりよくなく、街が暗くて、どっちの方向に行けば酒場があるのかわからない。小さなスーパーがあったので、客に「この辺に飲めるレストランはないですかね」と聞くと、「5分待ったら、車で送ってあげる」という。それはありがたいので甘えることにした。彼らは、お酒を買うと、スーパーの隣の屋台で、何か注文している。スパムのような肉を角切りにして、油でいためだした。そして、煮たソラマメをさらにくわえた。この地域の定番のおつまみのようだ。うまそうだなあと見ていたら、屋台の親父は、僕らには、ソラマメだけをプラのトレイによそってくれた。僕たちは、ソラマメを持って、車に乗せてもらって、レストラン街で降ろしてもらった。

通りに面したところに生簀があり、鯉のような魚が泳いでいる。隣では、その魚を開いて炭火で焼いている。これがイラク料理で有名なマズグーフである。レバノンレストランと書いた看板が立っていた。狭い階段を上がっていくと、ピンクの薄暗い照明。アラブ(クルド?)のむさくるしい親父たちが酒を飲んでいる。そんな中で、きれいなお姉さんが2人うろうろしているが、ホステスというわけでもなく、客と二言三言はなすと、トイレの前の部屋で、坐って客を待っているようだった。多分売春婦なんだろう。

僕たちは、なんとなくぼったくられるのではないかとびくびくしながら、ビールを頼み、魚を頼んだ。魚はキロ売りで、2キロからじゃないと売ってくれないという。まあ、あまったら、ホテルに持って帰ろうと思い、思い切って注文したが、ウェイターは、なんだかんだといって、「今日は魚はない」という。じゃあ、一体何があるの? と聞くのだが、食べるものは何もないというのだ。
「レバノンレストランじゃないの?」「あれは、看板だけだ」

まあ、ありがちな話。周りを見ると、ザクロの実をみんなつまんでいるので同じものを頼んだ。屋台でもらったソラマメとザクロの実に塩をかけてつまむ。夜が更けていった。ビールを一人3本はのんだけど、全部で3000円行かなかったから、予想に反して、健全なお店だった。

一足先に帰国した看護師からは、「怪しいバーに行けてよかったです。また行きたいですねー」とメールをいただいた。また来てくれる? ということで、接待は大成功だった。

さて、その後、僕はヨルダンに移動した。震災から一年、3月9日から始まる展示に出品する写真をヨルダンで印刷しようとしたが、なかなかテーマが絞りきれず、写真を選ぶのに苦労した。イラク戦争後と震災後の福島で生きる人びとのポートレートが中心だが、それらが、違和感なく混ざり合うところで、未来が見えてくるようなものを作りたいと思った。そんなんで、悶々として、酒でも飲んでいないとやりきれない。

ホテルから、歩いて5分のところに、酒の専門店がある。ヨルダンはキリスト教徒の数がぐっと減るがそれでも酒が買えるお店がある。以前は、スーパーマーケットでもお酒を売っていたが、最近ヨルダンは、外国人といえば、湾岸からのイスラム教徒の金持ちが遊びにくるので、彼らの目に付く所には、お酒を置かなくなってしまった。

専門店は、あやしく、お店の親父は、ひるまから酒臭い。こちらでは、大豆を二周り大きくしたような豆を茹でたものに塩をかけて、つまみにしている。ロング缶は、3.5JD、日本円で400円、イラクでは、100円くらいだったので随分高い。こちらでは17%の消費税がかかるというのもある。

2日後、アルコールが切れたので、同じ店にビールを買いに行くと、今度は、2.5JD(280円くらい)だという。「このあいだと違うじゃないか、ぼったくりだ!」とせめると、親父は、気まずそうに、「今日はディスカウントしてやってるんだよ」といった。

震災から一年、3月9日〜3月14日
「イラクと福島の子どもたち展」を日比谷で開催します。
http://www.jim-net.net/event/120309picture/