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夜の中からぼんやり犬の顔が浮かび出るんだ
吠え声が突然現実化する
獰猛な毛並みで何を守るのか
何を敵と思い何を信仰するのか
緑と赤のネオンサインが交替するとき
夜の親密さはエル・パソとシカゴをむすびつけ
感情と運命をきびしく判別する
ぼくは気にしない
犬1は小さな無尾犬、弱々しい抗議
犬2は痩せたブルテリア、そもそもあまりやる気がない
犬3は忠実な牧羊犬で死者の魂にも目を光らせる
さあ午前二時の太陽を探しにゆこう
道路を蹴ってかけてゆく羊たちの群れが
空っぽの都会では夜汽車のようにうるさい
ざわざわと路面から牧草が生えてくる
これもまた魔法昔話の起源
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詩は現実にとっての夜だから
詩は叫びにとっての無音だから
誰も知らないこの夜の風景をきみのために指さすことにしよう
月の光が湖のような効果をもって
10センチくらいの水深で世界をひたしている
ひとつの岩山から次の岩山へと
小舟を漕ぎ出してわたってゆけそうだ
この光景こそいわば世界に関するshorthandで
この圧倒的なしずけさに立つならばこの世の
あらゆるばかげた戦闘の背後にあるものも想像できる
ぼくらの都市の枯れ果てた根も理解できる
生きてゆくことのshorthand
跳ね出した野うさぎの気まぐれな進路を
三つのヴァージョンの音を欠いた動画で見せてくれ
しずかにふるえるゼラチンの風景群が
きみの深い思考をふるさとのように問いただす