ヨルダンには原発は要らないと思う

ヨルダンで展覧会を開くことになった。画家の川口ゆうこさんからお誘いがあって、個展をしたいんだけど、日本の震災のことを紹介する写真も展示したいという。気仙沼に在住の画家、相澤一夫さんも津波の絵を提供してくださることになり、それで結局グループ展をすることになった。

ヨルダン人から「何を伝えたいですか」と聞かれてちょっと戸惑ってしまう。ヨルダンには隣のシリアから着の身着のままで逃げてくる人が毎日1000人近くいる。一説によると10万人を超えたというのだ。今回の展覧会は売り上げを、日本の被災地に寄付しようとうたっている。もちろん、在留邦人からの寄付は歓迎だがヨルダン人に寄付を求めるのは忍びない。

僕は福島で写した写真を展示した。ヨルダンは、昨年日本と原子力協定を結んだ。2035年までに4基の原子炉を立ち上げるという。日本は、三菱がフランスのアレパと合弁会社を設立して入札に参加しており、7月には、落札されるという。

今回の展覧会の目的は、反原発や脱原発を訴えるものではないのだが、僕としては、原発を持つ、持たないは、ヨルダン人が決めるのであって、僕たちがとやかく言う事ではないが、福島で起こったことをきちんと知って欲しいし、伝えていくことは僕たちの責務だと考えている。野田首相は、「ヨルダンは既に話をしてきた。しかし、新たな国と締結する場合は、福島の事故を考慮して慎重に対処する」という。

さすがの野田政権も長期的には脱原発を決めており、ヨルダン用の原発は在庫一掃セールとでもいえようか。そんなものを買わされた国はたまったものじゃない。しかも、ヨルダンは、砂漠の真中につくるという。生活廃水をためてその水を冷却に使うのだそうだ。今の衰退した日本にそんな技術はあるのだろうかと疑ってしまう。

ヨルダンでは、地元の反原発の動きもある。哲学者のアイユーブさんもその一人。展覧会を見に来てくれた。最近は福島原発に関してアラビア語で本もだしている。「ヨルダンには、世界の2%のウランが埋蔵していると思われていたが、アレパの調査結果では、ヨルダンのウランはほとんど使い物にならないという。結局ヨルダンは、どこかからウランを買うわけだが、ロシアが優位に交渉を進めている。日本? 厳しいかもしれないね。」と分析してくれた。原発の候補地に挙がっているマフラクを視察してくれば良いと、ターレクと言う人物を紹介してくれた。

4月20日、ヨルダンの首都アンマンを北東に50キロ、シリア国境近くの町マフラクに向かう。最近はシリア情勢の悪化により避難してくるシリア難民があふれているという。金曜日の朝にもかかわらずターリク氏が会ってくれた。ターリクさんたちは、原発が誘致されることを聞いて、2011年2月に「アリハムーナ」という団体を立ち上げ、反対運動を始めた。最初は6人だったが、今では3600人の仲間達がヨルダンにいるという。
「マフラクの住民は全員が原発誘致に反対しました。最終的には国王がやってきて、話を聞いてくれた。そして、マフラクの住民が厭なのなら原発はここには作らないといってくれた。そして、一ヶ月半くらい前に政府は正式にマフラクに原発を作ることを断念したのです。」住民運動の勝利だ。

反原発を掲げて、ヨルダン政府の圧力はないのか?
「内務省も、警察も、国会議員も味方してくれた。120人のうち63人が、原発には反対だという。しかし、原子力省のハリッド・トゥッカーン代表は、フランスのアレパとの結びつきが強く、もうけようとしている。国王は、この問題に関しては、中立を保とうとしていて、国会などの民主的なプロセスをあえて重んじている。公式には、原発に、賛成、反対は表明していない。」

ヨルダンでは原発を受け入れると、地域にお金が落ちるというような話はないのか?

「そんな話は聞いていない。日本ではそんな事があるのか?」


なぜ住民運動が勝利したのか?

「1.すべての議員に意見書をだして、関心を持ってもらった。2.マフラクの人たちと勉強会、説明会を根気よくやってきた。そしてポスターを作って町のあちこちに張った。3.警察に行って、私たちが原発に反対していることを訴えた。4.すべての環境団体、人権団体などにも協力、連帯を求めた。5.メディアに取り上げてもらった。6.政府の説明会や勉強会には、必ず顔をだして、反対を訴えた。
日本大使が現場を視察しに来た事があった。25人のマフラクの人たちが集まってきて、日本語で、原発反対と書いた紙を持って訴えた。大使は、どうして、自分達の視察をマフラクの人々が知っていて、しかも日本語で訴えてきたのかとびっくりしていた。やはりこのように私たちの運動が盛り上がったのは、福島の事故が大きかったと思う。Facebookに記事を書くと、多くの人たちがコメントをくれたことも勇気づけられました。」


マフラクには原発を作らないことが決まった。アリハムーナとして次の計画は?

「政府は原発そのものを諦めたわけではない。カラックの近くのコトラーネという場所が次の候補になっている。我々は、コトラーネの住民の反対運動を手伝う。」


日本に向けたメッセージを
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「福島で起こったことに私たちも深い悲しみを感じています。日本の皆さんは、落ちこまないで欲しい。あなたたちは、経験が多く、みんなで協力することでこの困難を乗り越える事ができる。ヨルダンと日本は、今まで強く結びついてました。マフラクという小さな町にも、日本からボランティア(協力隊)が30年間も来てくれています。私たちに出来ることがあれば協力したい。そして、原発が、私たちの自然や、生活を壊していくことを、ぜひとも阻止しなくてはいけないし、日本とヨルダンの人々の関係を壊して欲しくないのです。」


今回出会ったヨルダンのメディアの人たちにも「この国では、反原発を唱えると、怖い目にあわないのか? あなたたちは自由に記事がかけるのか」と聞いてみた。「昔はそんなことになったかもしれないけど、私たちはアラブの春以降はそういう規制はなくなった。別にもともと規制があったわけではないけどなんとなく言いにくい雰囲気はあったと思うわ」ヨルダンが元気だ。一方でダメになっていく日本を感じることも最近は多い。

今は、僕はヨルダンからイラクのアルビルというところに移動したが、先日タクシーに乗ると、運転手が、「日本人か」と聞いてくる。そうだと答えると、「この車は日本車だ」という。トヨタのカローラだ。ほめてくれるのかなと思って聞いていたが、「日本車はすぐ壊れる。2年も乗ればがたが来て、ほらハンドル回すと変な音するだろう」原発も含め、日本は、いいものを作って、喜んで使ってもらおうという気位がなくなってしまったのかもしれない。