皐月のまぼろし

空はごうごう呼吸をしていた
風と雨がつよくなる

雫滴る軒下から路地を見る

歩いていた人々は
雨と一緒に溶けてなくなってしまったのだろうか?
建物が寒そうに立っている

誰もいない
硝子の窓にはただれるような雫

何度目かの突風が吹いた

一人、真っ赤な服に身を包んだ少女が
早足に路地をすり抜けていく

その赤はまるで舞台衣装のようだった
青白い世界に、入ってはいけないものが飛び込んで来たような

彼女を追うように、暖かい光が差してくる

雨は細い線に変わり、止んでいく 

雪解けの朝のように澄んだ空
溶けた人々もどこからか湧いてきて

古本街は再び賑やかになる

お日様を連れてきた少女はどこかへ消えていた

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