清水玲子の「秘密」が完結した。
殺人事件などの凶悪事件を捜査するために開発された死者の記憶を再生する装置を使った科学捜査をする捜査員を主人公にした近未来SFハードボイルドだ。死者の生前の記憶を辿る捜査を指して、他人の'秘密'に触れる行為の善悪などを織り込みながらストーリーが進む構成だったが、とうとう終結を迎えた。それなりに、影を残した結末に何を考えるかは読者の気持ちに任せるべきだろう。
実はこの作品は、丸の内の松丸本舗で発見し、その足で階下の丸善で大人買いをしている。非常に衝撃的な出会いだったと今思い起こしても新鮮だった。なので、ストーリーはそれこそ秘密である。ぜひ、各自でどう感じるのか、知りたいものだ。
「秘密」は人間の頭脳の中の記憶を取り出すというものだが、実際の脳の仕組みを考えるとそう簡単にいくようには思えない。まあ、その部分がSFなのだが。
人間の感覚に直接うったえるという意味では、仮想現実感というものがある。おそらく、感覚器を経ずに、直接脳に仮想の感覚を与えれば、よりリアルに現実以外の経験を与えられるはずだ。そういえば、そうした仮想現実感に実際の人間に与えられた危害を使った犯罪という話では、道原かつみ+麻城ゆうのジョーカーシリーズに「ドリーム・プレイング・ゲーム」という作品があった。こちらの方は、仮想現実を受け入れる方は、ある意味、ほかの感覚器はお休みなのだから、どちらかというと寝ていて夢を見る感覚に近いのだろう。しかし、そのために、再生用の感覚情報を得るために実際の人間に対する暴力行為を伴うのならやはり犯罪というべきだが、ある意味、ゲテモノやホラーなど怖いものを体験したい人間の性を考えると意外と確信をついた犯罪だといえるのかもしれない。
もう少し平和な夢の話なら、女性SF漫画家の先人のひとりである竹宮恵子の「私を月まで連れてって!」に「夢魔=ナイトメア」という話がある。
それこそ、仮想現実感どころか、自由に各自の欲しい夢を見させる機械の話だが、やがて、人がその夢の中に逃げ込もうとするという結末になっている。とはいえ、この「私を月まで連れてって!」自体は宇宙飛行士と少女のラブストーリーという全くのファンタジーなのだから、これはある種の皮肉とも言えるかもしれない。
夢を見る機械に入って、現実に戻されるという話は、多くのストーリーテラーを魅了するものらしく、寺沢武一の「コブラ」の冒頭。普通の生活をしていた主人公は、ドリームマシンで見た夢から、消し去っていた記憶が戻って、海賊コブラとして宇宙に飛び出していく。これなどは、現実が夢よりも、夢のような世界ということで、スペースオペラの幕開けとしては相応しいのだろう。
夢と記憶を巡っての思索の旅、ちょうど、夢のようなブエナビスタ・ソシアル・クラブの曲も終わったところでお開きにしましょう。