荘司和子 訳

彼はふ〜とため息をついたが、顔色も変わっていないし、生真面目という風でもなければ茶化している風でもなかった。
「きみらの書いたものはのんべんだらりで冗長。雰囲気だけじゃ読んだ気がしないよ。あれもこれも説明が多すぎる。社長は気に入らなかった。社長が言うには、きみらはこういうものは書かない方がいい、短編か小説かなんか書いて売った方が役に立つ。白表紙本なんてぇのはその筋の連中でなきゃあだめだ。きみらのやることじゃない、ということだ」
と言うと、彼はグラスを持ち上げてごくりと飲んだ。そして押し黙ってしまったぼくたちのその場の空気をなごめようとするかのように、また口を開いた。
「さあ、飲めよ。酒だ、これはつまみ。あまり考え込むな」

ぼくたちにとっては悪い知らせだった。がっかりはするし、すっかり場がしらけてしまった。とはいえぼくたちの人生全体から見ればいい知らせだったのかもしれない。これが人生の重要な転換点になったともいえるのだから。その日は飲んでも味気なかったのだが、気持ちよく酔うことにした。酒を飲んで酔うことについては決めていることがあった。お酒があまりない日はしっかり酔うことにしていて、お酒がたくさんある日にはあまり酔わないようにする、というものだった。

気晴らし本というか白表紙本というかその手の本については、わたしはそれ以上考えることをやめた。自分が得意とする方面の仕事をするほうがいい。とはいえ、プラスートの部屋にはこの手の本が3、4冊ころがっていて、こっそり読まずにはいられないのだった。ドンジュアンとかチャーンデーンとかいうペンネームのどれも、プラスートの書いたものではないかと疑っているのだが。

ただし、俺は書いてない、俺は書いたこともない、と強い口調で彼は主張するのだ。信じられますかね。この野郎めが!  (完)

(初出「週刊マティチョン」2007.5.4)