5月は、やはり忌野清志郎のことを想う月だ。1日にひとつ、小さな言葉が添えられている日めくりを愛用しているが、今年の5月2日には「すきだよ、とうたう日」という言葉が添えられていた。ここにも清志郎の事を想っている人が居る、と小さな発見をする。
清志郎にちなんだ2つのコンサートに行った。
ひとつめは4月27日の荒吐(アラバキ)ロックフェス。仙台駅からバスで1時間くらいのところにある、みちのく公園キャンプ場は、まだ桜が少し残っていた。出演することで、みちのくのロックフェスを応援していた清志郎に感謝をこめて、毎年彼のためのコーナーが設けられる。フェス2日目の「THE GREAT PEACE SESSION "僕の私の好きなキヨシローSONGS"」を見に行った。
清志郎の盟友、仲井戸麗市がハウスバンドのバンマスを務め、ゲストボーカリストは、仲井戸麗市が直接誘ったようだった(何人かがチャボから電話をもらったと誇らしそうに話していた)。清志郎ファンならば、出演者のラインナップを見ただけで胸が熱くなってしまう。石田長生、三宅伸治、ワタナベイビー、leyona(レヨナ)、和田唱。清志郎といっしょに生きてきた人たちだ。清志郎との思い出をいっぱいもっているはずなのに、決して声高にそれを語らなかった人たちだ。それぞれが充分考えて、2曲ずつ選んだ清志郎の歌を順番に歌った。みんな自分らしく、清志郎の歌を懐メロにしないで、現在ただ今の歌として歌っていて良かった。そういう意思を感じさせる、名演だった
2つめは5月2日の「忌野清志郎ロックン・ロール・ショー Love&Peace」。2010年から毎年5月2日に開かれているが、今年は武道館から渋谷公会堂に会場を移して開催された。RCサクセションの人気が爆発した、想い出の「渋谷公会堂」だ。今年の出演者は奥田民生、Char、トータス松本、真心ブラザーズ、仲井戸麗市、そして忌野清志郎(ライブ映像による出演だけれどね)。
「全部 the 弾き語り」というタイトルが示す通り、基本的にはギター1本持って清志郎の歌を歌うという内容だ。Charは清志郎との共作「かくれんぼ」を歌った。あんまり有名ではないけれど、素直で良い曲だ。仲井戸麗市も、「けむり」という意外な曲を歌った。過剰な演出の無い、シンプルな良い構成だった。最後にはフィルムコンサートによる清志郎の歌を6曲聴いた。「世界中の人に自慢したいよ」を心から歌う清志郎の姿に新鮮な感動を覚えた。今さらながらの新発見だった。清志郎の魅力はまだまだあるんだぜ!と言われたようだった。
うれしいことに、4月末に清志郎の新刊『ネズミに捧ぐ詩』が出版された。1988年に清志郎がノートに残した未発表の詩が収録されている。そのなかの1篇。母親の若い頃の写真を見た時の気持ちを記した詩がある。
Hey!Baby、見てみろよ
何て、可愛いんだろう!
わーい、ぼくのお母さんて
こんなに可愛い顔してたんだぜ
こんなに可愛い顔して
歩いたり、笑ったり、手紙を書いたり
歌ったり、泣いたりしてたんだね
『ネズミに捧ぐ詩』(2014年/KADOKAWA)所収 「Happy」
こういう独特の感受性が清志郎の魅力だなと思う。清志郎が実の母親と死別していて、会った記憶のない母の写真を見たという特別な事情もあるけれど、ここに書かれているのは、そういう特殊な生い立ちの事ではない。どんな人にも若い頃はあって、人のそういう頃に思いをはせるという、普遍的な心のありようだ。かわいいと素直に思う子どものような心だ。それが清志郎の魅力だ。
清志郎はもうこの世を去ってしまったけれど、彼の残した歌や詩を今も、繰り返し聴くことができる。浜辺に波が残していったすべすべの石を大事にポケットに入れておくように、清志郎という宝物をポケットに入れておくことにしよう。