ある日の夕方、散歩の帰りに立ち寄った公園の広場の地面に、ガラスの破片が広く飛び散っていた。
三角、四角、台形、三角、三角。無色透明、薄緑、黄、薄ピンク。
割れる前は一体なんだったのだろう。
ぱきぱきぱきぱきぱき
かけらを観察しながら歩き回れば、ガラスは踏まれて更に細かく割れていく。
「46番地はどの辺りでしょうかね」
広場の向こうから見知らぬ婆さまに道を尋ねられる。
姿はなんとなく視界の隅に入っていたけれど、何も意識はしていなかったから、声をかけられて一瞬怯んだ。
婆さまはユリの花束を、何にも包まず心臓の辺りに抱いていた。
どこかで切って摘んできたのか、ポケットから木ばさみの取っ手が見えている。
茎から伸びた細長い葉が皮膚にちくちくあたっているようで、少し痒そうにしていた。花びらはしっとり青白く、ひとつひとつが大きい。
目的地の住所を書いた紙を見せてもらうと、住んでいるアパートのすぐ近くだった。
道順を説明すればすんなり理解したようで、彼女はニコニコして礼を言うと、少し早足で一本道を歩いていった。
薄明の時間帯は、度々不思議な人に出会う。
明日には片付けられてしまうであろうガラスの破片をしばらく見つめて、
光源のない空の下、家路につくことにした。