アジアのごはん(66)柚子胡椒

先月の水牛通信を読んだマレーシア在住の友人が、今朝、京都にやって来て開口一番「なんだ、太ってないじゃん」。あはは、ココナツオイル食べすぎで太ったと書いてから一か月、ワタクシは順調に元の体型に戻りつつあるのであります。トウガラシ大量摂取作戦を行いつつ、近所の友人とウォーキングというか、ちょっと長めの散歩を始めたのである。

バカ話をしながら早足でどんどん歩いていくのが何とも気持ちがいい。いわゆる運動、というような歩き方ではなく、あくまでちょっと早足の散歩である。折しも京都は紅葉の真っ盛り、しかも近所は仁和寺、妙心寺、竜安寺に金閣寺、双ヶ岡に広沢の池、太秦広隆寺、宇多野、高尾などなど名所旧跡、自然の宝庫。ふだんは路面電車の京福電車やバスで行く買い物も、散歩代わりに歩いて行こう、じゃあ行こう、ということになって毎日夕方に1〜2時間歩き回る生活だ。近所といえども、こんな道があったのか、ここの紅葉はすごい、え、こんなところに鳴滝の滝が!とか、太秦映画村はこんなに入場料が高いのか、竜安寺の領地の裏山はなんでこんなに広くて大きいのか(しかも天皇の御陵がたくさんある)、今日の夕焼けはすごくきれいとか毎日が発見の旅である。

しかも、何か気分が明るい。寒くなってくるとウツ気味になる(だいたい気温が摂氏15℃を切るとダメになっていく)のだが、早足で歩いていると、気持ちが明るくなってくる。しかも、いやいや歩いているわけでなく、3日目ぐらいから「歩きたい!」と身体が要求するようになってきた。ついつい、帰りついてビールでも飲むか、とふたりで一杯やってしまうこともたびたびあるが、まあたまにはいいってことで。

トウガラシ大量摂取ダイエット作戦は、一応継続中だが、この間、姉が遊びに来たので夕食にキムチ鍋を供したら「ええっ、毎日こんなに辛いの食べてんの?」と驚かれた。「え、これが辛い?」その日は遠慮してキムチ以外にはトウガラシを入れてなかったので、ヒバリにとってはほんのり辛い程度である。わが家の辛い基準はあまり一般的ではないのかもしれない‥。

それはともかく、先日たくさんの柚子と柿、野菜をいただいた。うちの同居人のファンの方からの差し入れである。すべて自家栽培の無農薬もの。待ってました〜。去年たくさん柚子をもらったときに、思いついて柚子胡椒(ゆずごしょう)を作ってみたのだが、それがたいへん美味しかったので、今年も作りたくてうずうずしていたのだ。

しかも今年は、春からおねだりしてトウガラシまで作ってもらったのである。トウガラシは柚子よりも早く実るので、先に頂いて、すでにペースト状にして冷蔵庫で待たせてある。乾燥トウガラシはいつでも手に入るが、生のフレッシュなトウガラシが出回るのはほんの一時、なかなか入手が難しい。去年も柚子をもらったのはいいが、生トウガラシがない。そこで、たまたまタイでいつも買ってくる生トウガラシの荒潰し、ナムプリックがたくさんあったので思いついてそれで作ってみたところ、かなりおいしいのが出来た。しかし、ナムプリックを大量に日本に持ち帰るのはちょっと大変だ。そこで、柚子をくださる方に、今年はぜひトウガラシも育ててくださいとお願いしておいたのだ。

「え、柚子胡椒って生トウガラシから作るの?」と思われた方もいるかもしれない。柚子胡椒は九州地方の薬味で、柚子の皮と「生トウガラシ」をすりつぶして塩を少々加えたものである。柚子の風味とトウガラシの辛みとのハーモニーが何とも言えぬうま味を醸し出す。鍋やうどんの薬味に最適。コショウ科コショウ目のブラックやホワイトの胡椒ではなく、赤や緑のナス科トウガラシ目の鷹の爪やチリと呼ばれるトウガラシを使う。

九州地方ではトウガラシのことも胡椒と呼ぶ。胡椒とトウガラシの名前がいっしょくたなのは九州に限らない。いわゆるブラックペッパーの黒い粒粒の胡椒のことをタイでは「プリックタイ」と呼ぶが、直訳はタイのトウガラシ。「プリック」というと赤や緑の辛いトウガラシを指す。なぜ胡椒の方にタイの、と付くのかというと、タイにトウガラシが伝わって来たときには、固有の名前はないので、とりあえずもともと胡椒の名前である「プリック」と呼ばれた。ところがトウガラシは大人気でタイ料理に取り入れられ、大量に使われるようになると、それまで胡椒と同じ名前で呼ばれていたものが、本家取りで「プリック」といえば辛いトウガラシを指すようになってしまった。そのため、胡椒の方に「タイの〜」という言葉を付けて呼ぶようになった。

もっとも、トウガラシのことを胡椒と呼ぶのは九州だけの話ではない。トウガラシが16世紀に日本に伝わった時には日本名がなく、同じピリッとするところから日本全国で南蛮胡椒とか胡椒という名で代用していたのが、いまも九州や長野で残っているということだ。南蛮と呼ぶ地方もある。この胡椒との名称いっしょくたは、胡椒を探しに出たコロンブスがアメリカ大陸でトウガラシを見つけ、胡椒の一種を見つけました〜とこじつけて現地での呼び名のチリ(チレ)にペッパーを付けてチリペッパーと呼んだのが始まりだ。もちろん、トウガラシは胡椒の一種などではなく、全く別の品種の植物である。

ではさっそく作ってみましょう。
用意するもの
大き目の熟して黄色い柚子1、生トウガラシ1 塩0.3の割合(だいたい)で好きなだけ用意する。
今回は大きい柚子なので、4個使った。
柚子を切り、ふくろごと果肉を取り出し、白い綿を付けたまま細かく刻む。
生トウガラシは出回っている時期に入手してヘタを取って刻み、ブレンダーで荒ペーストにして半分量の塩を加えて置いておいたものを使う。
柚子とトウガラシをブレンダー、ハンドミキサー、ミキサーなどにかけて粉砕し好みのペースト状にすれば出来上がり。塩の量は途中でちょっと味見してみて足していく。

なるべく細かく刻んでおいた方がペーストにしやすい。塩の半量を塩麹にするとさらにおいしい。塩麹を使った場合は置いておくとペーストの表面にうっすら白い膜がはるが、これはカビでなく、麹菌なのでまったく問題ない。

出来上がったらガラス瓶などに小分けして、冷蔵庫で保存する。大量の場合は冷凍もいいようだ。少し寝かしてもおいしいが、半年以内に食べるほうがいいだろう。塩分を増やせば長持ちするが、風味が劣る。生トウガラシがない場合は、乾燥トウガラシをぬるま湯につけてもどして使うが、やはり生が一番いい。

他の人はどうやって作っているのか、とクックパッドを覗いてみたら、手袋をして完全装備でトウガラシを扱えとか、(たしかに素手で触ったら、目や肌に触ってはいけません)トウガラシをまず半分に縦割りして種を丁寧に取り出すとか、青い固い柚子をつかって皮だけすりおろすとか書いてある。ええ、そんな面倒くさい。

ヒバリのレシピは九州で無農薬農業を営む「サムライ菊之助」さんのブログから参照したものだ。一度、菊之助さんの柚子胡椒をいただいて、あまりのうまさに一気に柚子胡椒のファンになったが、その後市販のものでそこまで感動するものには出会ったことがない。去年、そういえば柚子胡椒の季節かもと菊之助さんのブログをのぞいたら、すでに完売していてがっかり。でも作り方が書いてあったので、メモしておいて自作したというわけだ。

柚子は完熟した黄色いもの、トウガラシは青でも赤でもいいが、赤くなってからの方がおいしいと思う。市販の柚子胡椒は青い色で、固い未熟な柚子の皮と未熟な青トウガラシで作ってある。これを再現しようと思うと大変だし、食べ比べてみても、ヒバリは赤い柚子胡椒の方がおいしいと思う。まろやかさが加わって、うっとりだ。ちなみに種は多少残っても気にしない、気にしない。

生トウガラシは秋の初めに出回るので、入手したら荒ペーストにして塩を加え、ガラス瓶に入れて冷蔵庫で保存しておいて、柚子が出てくるまでじっと待つ。
柚子とトウガラシは別々にブレンダーにかけてペースト状にして後で1:1の割合で混ぜ合わせるとうまくいく。柚子ペーストは少し取り分けておいて、果汁と白みそと合わせると、馥郁たる香りの柚子味噌も出来る。

さて、出来た出来た。さっそく鍋の薬味に使うと‥う、うまい!
もちろん、かなり辛いので、少しづつ入れてください。