そこに咲くということ

新年明けましておめでとうございます。

昨年は最後の最後に、学生時代にお世話になった先生というよりも師匠である植物学者を亡くしました。残念な思いとともに、仲の良かった奥様のすぐ後を、長い闘病生活の末でしたから、ご苦労様でしたという気持ちもあります。

学生時代からの夢の話を少しお付き合いください。

例えば、山の中にある花が咲いていたとします。多くあるセイヨウタンポポやオオバコではなく、ここは珍しいタデスミレが咲いていたとします。そう、季節はちょうど6月。タデスミレの咲く信州は5月に春を迎えますから、多くのスミレたちは5月の初旬から中旬には咲いてしまうのですが、このスミレは少し開花が遅いのです。

タデスミレは少し変わった姿をしています。普通のスミレはそれほど背が高くありませんが、このタデスミレは30センチ以上になります。そして、細長い葉はまるでタデのようです。タデスミレの咲くこの山には、5月にはヤマシャクヤクが咲いたり、近所にはハシリドコロが咲いたりします。(どちらも見たことがあるので確実ですよ)そして、このスミレは、この人里にも近い山の一角にしか、存在しません。そうです。世界中でここだけしか咲かないのです。世界中で、ここだけです。

最近では、ニホンジカの食害の被害が伝えられます。まあ、スミレを好きで食べる動物は聞いたことはありませんが、全国で増えすぎてしまったシカの食害の話は最近は良く聴きます。

さて、ここに咲くタデスミレはなぜ、ここに咲いているのでしょうか?
いや、なぜ、ここだけに咲いているのでしょうか?

植物がそこに存在して開花しているということのためには多くの背景が存在します。まず、現在の生育環境はどうでしょうか? 気温は? 降水量は? 日照は十分でしょうか? カタクリなどは暗い林の中が好きですが、暗すぎると咲きません。春先はある程度、明るい必要があります。タデスミレはどうなんでしょうね。

土壌はどうでしょうか? 酸性だったりアルカリ性だったりする必要はあるのでしょうか? もしくはそういった環境は好ましくないのでしょうか? 植物の中にはある種の微生物といっしょではないと生きていけないものもあります。そういったことはないのでしょうか? そして、そこにあるということは、遠い過去にここにどうしてかやって来る必要があります。そして、現在に至るまで、ここにずっと生育してきたという事実があるので
す。

多くの背景があって、そこに一輪の花が咲いている。そう考えると、なぜ、そこにその植物があるのかが気になってきます。学生時代、ずっとそういう話に興味がありました。なぜなのか? 疑問は尽きません。そして、その疑問の先にもうひとつの疑問があるのです。

じゃ、タデスミレの咲く森はどのように作ればいいのでしょうね。自然科学の現在や過去に対する研究の先には、未来の応用科学や工学へとつながっているのです。