1月1日:「あんなに温厚なやつでも自殺を図るなんて、ひっそり希死念慮でも抱いてたのかもな。幸い一命は取り留めて、今はAAとか通いながら生きてい
るわけだけど、血を吐いて三日三晩部屋で倒れていたそうだよ。その時のことがきっかけで断酒を決めたらしいけど、これがまた中毒中と同じくらい大変だと
言ってた。笑いながら――」。
落胆や失望には副産物がある。必ずしも悲劇的なものとは限らない。肩を落とし地面に這いつくばるような目線でいると、社会の、人間界の真なるありさまを
目の当たりにするチャンスが与えられる。これを逃さない手はない。現実を構成している要素が、いかに皮相的でいんちき臭く、無意味な産物に満ちているかを
思い知ることができる。
1月1日:「よく知られた通り、アルコールを急に止めると手足が震える、いわゆる心身譫妄状態になる。離脱症状だ。呂律が回らなくなったり、物忘れがひ
どくなったりもする。逆に体に悪いような気がするんだけど、そうしなきゃならないみたいだな。それと並行してアルコール外来にも通って、抗酒剤を処方して
もらうそうだよ――」。
今日、旧知の友人が亡くなった。まだ若かった。浅からぬ縁のあった人たちが、この数年で立て続けに去っていく。だんだんと生のテリトリーの外堀が埋めら
れていくような、しらみつぶしの順番がそろそろ自分に回ってくるような、そんな感覚を拭い切れない。人間が死ぬことで歴史は作られる。しかし歴史のほうは
人間に対して機械的だ。
メランコリーメランコリー。自分大好き人間が陥ったつもりのメランコリーメランコリー。メランコリーをエネルギーとしてメランコリーで生きるメランコ
リーメランコリー。リストカットリストカット、死ねないことが十分にわかっている上でのリストカットリストカット。自分の存在を広く宣伝したいだけのリス
トカットリストカット。
SEO、SEM、SEC、SEX、なんだかわけのわからんものばかりじゃな。あ、最後の一つはよ〜くわかる。もう大好き。根っからのファン。こうわくわ
くするな。憧れと郷愁。わが心の故郷。心ばかりじゃないぞ。体の故郷でもあるな。しかし今でもお豆さんがなんのためについてるのかわからん。考え過ぎて頭
痛がする。な〜んて嘘じゃよ。
今日という日が人類最後の日でなかった不思議に思いを致す。戦時中に希求する平和とは戦争のない日々だった。いざその平和を獲得すると、今度は虚無とい
う時限爆弾が仕掛けられ、有事の可能性やその気運が高まる。何の布告もなく核ミサイルが各所に落ちてきても我を通して生き残ってしまうくらい、人間はわが
ままなのかもしれない。
一切不可解というのは飽きっぽいということと関係があるようじゃ。瞬間接着剤でいつまでも密着しているのではなく、軽く塗った糊といった感じ。完全無欠
な理解など元より存在しない。限界効用逓減の法則により、それまでしがみついていたものから、滝のように流れ落ちる。メガネをちゃんとしてなけりゃダメ
じゃてそりゃ。
1月1日:「抗酒剤って聞くと、アルコールへの欲求を押さえる薬だと思うかもしれないけど、そうではなくて抗酒剤を飲んだあとにアルコールを飲むと、吐
き気、頭痛、激しい動悸、めまいがして、言ってみれば苦しめることでアルコールをやめさせようっていう薬なんだよ。地獄のような苦しみらしいよ。名前は忘
れちゃったけど――」。
しかしなんで飲んじまうかなあ。酒は飲んでも飲まれるな、か。いいこと言うね、先人は。わしにとって先人とは、おやじしかいない。おやじも言われてたな
あ。酒は飲んでも飲まれるな、とな。おやじにとって先人とは、わしのじいさんしかいない。じいさんも言われてたなあ。酒は飲んでも飲まれるな、とな。じい
さんにとって先人......。
(ご自由にお書き下さい)
平和のために戦争をする。出すために飲み食いする。笑ってもらうために大怪我をする。善人と思われるためにやせ我慢する。破壊するために壮大に作る。異
性の気を惹くために気苦労する。負けたくないがために最初から負ける。本性を悟られないためにおどける。薄ら馬鹿を隠すために難解な語句を並べ立てる。死
ぬために生きる。
口に入れシコシコした瞬間、フィリピン支局から一報が入った。血糖値は食事をすると緩やかに上がり、三四時間で空腹時と同じ値になる。正直な話、運任せ
のギャンブルで楽しんでいる時代ではない。男はズドン。ストロングミサイルをいつものお茶の代わりに一杯。両方から一気に二本来ており、今後のパートナー
を求めて勝てれば良し、と。
カルチャーショックってのは、ありゃ一時的なもんじゃな。母国と外国が違うのなんて当たり前。おんなじだったら気持ち悪いっての。で、その外国に一定期
間滞在していると、当初感動したものに飽き飽きし、戸惑いなんざ慣れに取って代わられる。外国は旅行程度でいいんじゃ。ショックが旬のまま帰ってくれば使
い物になるってもんじゃ。
1月1日:「抗酒剤を服用していたとはいえ、当初はそれでも酒を飲み続けて尋常じゃないくらい苦しんだそうだよ。紙パックの小さい日本酒を半分飲んだだ
けでも、数時間後に胃の中にあったものを全部戻したらしい。しかも駅の階段でな。全部戻すということは抗酒剤も出たわけだから、そこから改めて根性で酒を
飲んでいたんだって――」。
結婚や同棲を否定するのは、長いこと心で一方的に養ってきた幻想が壊されるからである。お互い離れていて、頻繁には会わず、思いを膨張させているうちが
一番いい。アガペ―、エロス、フィリアの正三角関係はそんな時に誕生する。だがやがて幻想を自覚するとともにいずれかの辺が短くなる。最後に残った点、こ
れこそが真の愛なのだろう。
厂下广卞廿士十亠卉半与本二上旦上二本与半卉亠十士廿卞广下
ところてんから滑り降りてきたブラフマン、タリスマン、ルサンチマンは、アンガージュマンとマージナルマンとの来るべき対決に備えて、フリーライダーに
変身してからニューマン、フリードマンと一緒に国語辞典でペーパードライバーを素揚げにした。これにはクリンスマンが激怒、全員をところてんへ滑り上げた
とさ。
その世紀が独自色が帯び始めるのは、世紀が変わって最初の十年前後という説がある。
十九世紀は文明と文化、二十世紀は戦争と経済と言えるだろうが、こうした分別をしたがるのは、人間の哀しい性でもある。アンシャン・レジームの崩壊が随所に見られ、新しさへの気運が高まっている。これもまた人間の哀しい性であることに違いはない。
1月1日:「そうやって飲んでいても、量自体は少なくなっていったり三日間は飲まずに過ごせたりと改善していったみたい。で、三日が一週間になり一週間
が一カ月になり、とうとう飲まなくても大丈夫になったんだって。飲酒への欲求もその頃にはなくなっていたようだ。ただ酒乱だったから、たまに飲むと大トラ
になったらしい――」。
今となっちゃあ何とかしたかったもんさ。もしもわしが政権を奪取したら......もしもわしがカレーだったら、良くて仰向け悪けりゃ精進。これに尽きる。口で
言ってわからなきゃあ、ヌルハチ的になるかアモカチ的になるか選べばいい。自由は自縄自縛にして自由自爆。自由が自由になったことなんかあるか? え?
あ? ほい。
働くとは耐え忍ぶことである。働かないこともまた耐え忍ぶことである。前者には「我慢給」が支払われ、後者はコミュニケーション的行為が付与されてい
る。我慢大会の参加賞たる「我慢給」は、生活という別の我慢大会で我慢され、生活なき生活を送る人々は、我慢を昇華するだけの方法を知り抜いている。そう
いう現実があるだけである。
♪ババンバ バンバンバン、浮気ばれた? ババンバ バンバンバン、かあちゃん逃げたか? ババンバ バンバンバン、そりゃそうだろ。ババンバ
バンバンバン、明日からどうすんだい? ババンバ バンバンバン、浮気相手と過ごすの? ババンバ バンバンバン、宿題やれよ。ババンバ
バンバンバン、また来世! ファーーーーーーーー。
しかしなんで飲んじまうかなあ。酒は飲んでも飲まれるな、か。いいこと言うね、先人は。わしにとって先人とは、おやじしかいない。おやじも言われてたな
あ。酒は飲んでも飲まれるな、とな。おやじにとって先人とは、わしのじいさんしかいない。じいさんも言われてたなあ。酒は飲んでも飲まれるな、とな。じい
さんにとって先人......。
Aという一般論を言えば「自分の中でAはない」と言い、それならばとBという一般論を持ち出せば、やはり同じ答えが返ってくる。自分にしか通用しない
ルールを作っているX。それでいて飄然としている。信念と見るか非常識と見るか。一般論と常識が外れたXは、案外な才能を持っているのかもしれない。そう
肯定するより救いはない。
テクニカルな御曹司は、厄介なことに時にコンポジション爆薬となる。点綴された刹那、大股開きで線描画をものすものじゃ。計算間違いしたからといって、
澄んだ鳴き声は失われるわけはない。仮に失われたとしても、ホワイトハウスコックスの三つ折りから、何名かを登場させれば容易に解決を見る。失語症は現代
に妥当なメカニズム。
1月1日:「本人の話すところによると、知人と居酒屋で飲んでからコンビニでウイスキーの小瓶買って、飲みながら歩いていたらしいんだけど、そこから先
の記憶が全くないときた。知人と飲んだあと共通しているのは、必ず警察や救急隊のお世話になったとのことだった。パトカーや救急車には何度乗ったかしれな
いと言ってたな――」。
若いんじゃない。幼稚なだけなんじゃよ。いい歳して親孝行の一つもできなかった。まともな収入がなかったからな。仕事も転々とした。もう数えきれんくら
いだ。会社人間にはなれんかった。やけ酒を飲んじゃ、それこそ若いやつらとひと騒動を起こし、警察のお世話になった。お迎えが近いと感じた時に限って、生
きる力が湧いてくる日々さ。
進歩主義者か否かに関係なく、人類は結果として進歩を目指し、そのうちのいくらかは実現してきた。危険の裏書きのない進歩はない。ある場合は成功し、あ
る場合は取り返しのつかないことになる。後者をいかにして少なくするかが課題なら、当たり前のものとして基本に立ち戻って検証する。人類の裏書きに退行の
跡がないとは言い難い。