〈偏光パールの下地に型押しして、さらに凹凸の上に染料を入れる〉、〈発泡ではなく、インクのドットをエナメルやガラスレザーにのせた水玉プリント〉、〈1枚の革を3層で染め分ける〉、〈ハラコに箔を貼り、毛を引っかき出す〉――。型押し、型抜き、箔押し、ワックス、インクジェットプリント、転写フィルム、ガラスレザー、焦がしたり毛羽立たせたり。紙や布に対する技術も取り入れた革の表面加工が、これほど多彩にシーズンごとのトレンドを生んでいたとは。6月、東京レザーフェアにでかけて驚いた。レースのような革、布のような革、油絵具で描いたような革......。牛をエイ、豚をヘビなど他の革に似せるものも、型で押すだけではなく下地の工夫と複数の加工を組み合わせているようだ。すごいなあと思いつつ、ものによってはそんなにまでして革ではない他の何かに似せる必要があるのかしらと思ったり。猫の写真をプリントしたものなんて、いったい何に使うのだろう。たしかにきれいだったけど。鞄? クッション? ソファや愛車のシートというのもありか。
フェアのことは浅草橋の革屋で聞いた。製本ワークショップの材料をときどき調達する店だ。ここはA4サイズなど同じ大きさに切った革が重ねてあったり幅さまざま色とりどりの革ひもがどっさり下がっていたり、何に使うのかわからないけれども小さな丸い革がいっぱいあったりと、店頭でうまいこと誘われて、つい、ついで買いしてしまう。ワークショップは本格的な革装ではなく、牛革を漉かずに交差式ルリユールの表紙にしたり豚革で厚紙をくるんで表紙にするようなものなので、いずれも端切れで充分。手足にあたる部分の不規則なかたちや染めムラや傷や穴はむしろおおいに活用できる。A5サイズ前後の革の端切れがどっさり入った箱を物色して、1枚100円をまとめて買ってまけてもらう。なかに、ちょっとめずらしい色柄ものを数枚入れておく。結局ワークショプでは、お好きなものをどうぞと言うと茶系や黒のオーソドックスなものに人気が集まる。せっかく革を使うのだから「革らしい革」を選ぶという気持ちもわかる。おかげで手元に残るのは派手な革ばかり、それで作る次の見本は悪趣味になる。
裏打ちした布に家庭用のプリンターでそれなりの印刷ができるようになったとき、これはいいぞ楽しいぞといろいろ試して布表紙の本を作ったものだ。仕上がりを採寸してデータを作れば背でも表紙でも思い通りにタイトルを入れられるのが何より良かった。布表紙の場合、それまではタイトルを紙に印刷して別に貼っていたからだ。プリンターの精度が年々良くなり、きれいにプリントできる布用紙も増えるにつれ、実験する必要がなくなって面白みは失せた。プリントということでいえば、だから今は革がその創成期である。ルネサンス期のジャン・グロリエ好みの装幀だとかアール・デコ時代のポール・ボネの装幀だとかを模して、表紙の凹凸を型で押し色柄をプリントし箔を押しエイジングをほどこしたら、いったいどれくらいのものができるだろう。レザーフェアでの印象からすると表面的には結構いけるはず。そんなもの、誰も望まないし誰も見たくないだろうけれど、革加工の複合的技術向上実験のための一サンプルとしてはおもしろいんじゃないかしら。次回からレザーフェアに装幀ブースを希望します!