アリスは本屋さんの中をお散歩するのが好きでした。
深い深い本の森の中で、知らない本を見つけるのが楽しかったのです。
でも、アリスは思います。なんだか、本の森の様子がおかしいのです。
開店していないふりの森:
ある日、アリスが森を歩いているとその奥の方に新しい本が山のようにうず高く積まれているのを見つけました。まだ、箱から出して間もない本や箱の中に入ったままの本が本の森の奥の方の平棚の上にたくさん置かれていました。アリスは思いました。
「これは本屋さんが開店しているのでしょうか?」
もうお昼をずっと過ぎた午後でした。
「たぶん、開店していないふりをしているのね。きっとそうだわ」
その後、その本屋さんの奥には何週間も同じ本が置かれたままだったというのはまた後のお話です。
あちこちに置かれた本の小山:
ある日、アリスは本屋さんの森の中を歩いていました。すると、そのあちこちに平積みの本の上に、本の小さな山を見つけました。アリスは思いました。
「きっと、慌てもののうさぎさんが忘れていったのね。きっとそう。」
ところが、次の日も、その次の日も、その山は置かれたままです。しかもよく見ると大きな本屋さんのあちらこちらに同じような山が置いてあるのです。
「ずいぶんとたくさんのうさぎさんが忘れ物をしたようね」
ふと、その山を見てみると同じ本がたくさん積まれていました。
「さて、これは忘れ物かしら?それとも?」
その山はいまも置かれたままとのことです。
透明な本の宣伝:
ある日、アリスが本屋さんの中を歩いていると、お店の中でビデオから面白そうな本の宣伝が流れているのを見つけました。
「面白そうな本ね。買おうかしら?」
アリスはビデオの近くの棚を見回しましたがその本は置かれていませんでした。
「きっと、普通の本棚にあるんだわ」
アリスはその本の仲間が並んでいる本棚も探してみましたがその本は見つかりません。
「きっと、これは透明な本の宣伝なのね。きっとそう」
このお話には後日談があります。
アリスはおうちの近所の本屋さんでその本を買うことができました。棚にあったその本たち(実はその本は3巻まで出ていたのです)を抜き取ったアリスは思いました。
「きっと人気のある本よ。これでこの本屋さんには当分なくなってしまうわ」
ところが次の日、その本屋さんには抜かれたのと同じ3冊の本がきちんと補充されていました。アリスはあの透明の本が置かれていた本屋さんって、売る気があったのか不思議に思いました。
最近、アリスがお散歩するような本屋さんはどんどんなくなっています。最初は屋敷林や公園の植え込みのような本屋さんがなくなりました。それから、あちこちにあった少し大きなチェーン店がなくなりました。最近では、大きな本屋さんもなくなっていきます。
「わたしが散歩できる本屋さんっていつまであるのかしら?」
アリスはちょこんと首をかしげました。