それはそうと、一九八〇年代終り近くになって、なぜ、
レイプ学説が飛び出してきたか。 千田さんは書いている、
おれの『従軍慰安婦』(一九七三)を、何十万人もの、
元日本軍兵士が買い、かくれて読み、嘆息とともに書架深く、
それを仕舞い込んだ、と。 学徒動員世代の、今井さんが、
空蝉も慰安婦、浮舟も慰安婦、とそういうふうには、
論じなくても、覚悟の、さいごの源氏物語論である。
(「千田」と言うのは千田夏光さん。「今井」は今井源衛さん。一九九〇年代の初頭に今井さんは「女の書く物語はレイプからはじまる」と論じた。)