製本かい摘みましては(121)

東京製本倶楽部研究会で行ったカロリング製本(Carolingian Binding )ワークショップで配られた資料の一部が、修復家の飯島正行さんによって倶楽部の会報73号(2016年7月発行)に掲載されている。カロリング製本とは、ごく大雑把に特徴を言うと表紙に用いた木の板に穴をあけて支持体を通して綴じる製本法で、8世紀に現れると9〜10世紀に最盛期を迎え、12世紀には使われなくなっていたそうだ。西欧で初めて製本に支持体を用いた事例という。

スイスのザンクト・ガレン修道院図書館所蔵の1200年以前のカロリング写本435冊のうちの110冊を検証した J. A. Szirmai さんの著書などを参照しながら、写真や図版も添えてある。図解が美しくわかりやすいので、正確ではなくても似たような綴じは自分でもできると口走りそうになるが、少なくとも、板に斜めに穴をあけるという作業がなければのこと(これが肝心なんだけど)。それさえなければ......と感じるのはルリユールを習っていたときに革漉きさえなければ......と感じていた愚かな日々を思い起こさせる。

板の厚さは7〜15ミリ、その側面から、ひら面に向かって複数穴をあけると言うのだ。私には驚きだけれど、そのためのコツや道具が記されていないのはつまりそういうことだろう。板は柾目で用いられるので湿気による変形は少ないが、上からの力に弱く割れやすい。したがって穴の位置は板が割れにくいように、またその数を減らす工夫がなされてきた。材はザンクト・ガレン本はほとんどがオーク(ナラ)。イタリアでは、ポプラやのちにブナが用いられたようだ。

さらに驚いたのは小口の断裁法だ。ナイフやカンナ、ノミなども用いられたが67冊がドローナイフで行われていたと推測されている。とっさに丸太の皮をむくものが頭に浮かんだが、小口断裁用に刃や持ち手を改良して使っていたのだろう。〈鉄で保護されたプレスに本を挟み、ドローナイフを斜めに引くことによって行われる。プレス自体は引く力に耐えられるように壁のフックに掛けられている。小口を数ミリ切るだけでも相当な力が必要とされた〉。根拠となったのは板の側面の痕跡で、その写真もあった。板の上に貼られていた革がはがれたのかはがしたのか。むきだしになった板の側面に動きのある刃物の跡が確かにある。1200年以前の誰かの仕事だ。

机の上の文庫本を片手で持ってぺらぺらしながら、本のかたちの一途を思う。そのための人と道具と機械の分業が固定しないことが好ましく思える。