誰もいない映画館

笠井瑞丈

10月18日祖母が亡くなった

5年過ごしたドイツから父と二人で日本に帰る
私は9才から11才の2年間を祖母と過ごす

あまり父も家にいなかったので
おおくの時間を祖母と過ごした

ドイツの学校から
日本の学校に移る

最初は日本の環境に慣れることが出来ず
友達も作ることが出来なかった

ドイツでは野原を駆け回って
サッカーをしてよく遊んでいた

日本ではちょうどファミコンが一大ブームの時であった
遊ぶと言ったら誰々の家に行ってファミコンをして遊ぶ

私にはまだその「誰々」というものがいなかった
学校終わりはいつも「今日誰々の家に何時に集合ね」

私の友達は祖母であり
私の母親は祖母であった

日曜日は必ず教会に連れてかれた
そしていつも千円を渡され
好きな本を買う
この本を探しに行く時間が
私にとってはたまらなく
大好きな時間であった

当時私はジャッキーチェンが大好きであった
ジャッキーチェンの本を買ったつもりが
間違えてブルースリー の本を買ってしまった

しかしこの時買ったブルースリーの本が
初めてカラダというものを捉える
きっかけになった本になる

それから

ブルースリー に毎日どっぷりはまり
彼のようになりたいと日々没頭した
カラダを動かし
足を高く上げる
回ったり
飛んだり

今考えればあの時が初めての
ダンス体験だったのかもしれない

金曜ロードショー

テレビの前に椅子を並べ
自分だけの映画館
作る
誰もいない映画館
作る
祖母だけがいつも観に来てくれた

毎週映画を観た

私の中の一番の最高の記憶

亡くなる三日前

祖母の目の中のには炎を見た

その瞬間に
全ての時間がよみがえった

ありがとう

私の中にあなたがいる
あなたの中に私がいる

また一緒に映画を観よう
サヨウナラ サヨウナラ サヨウナラ