あんたが死んでしもたことを責める気にはならへんのや。あんたがいつも言うてたことが間違いやとも思わへんし、どっちかいうたら、あんたのほうが正しいと思うことが多かった。世の中生きていくためには、みんなそれぞれに我慢してるんやで、と僕はあんたに言うてたけど、ほんまは僕かて我慢のきかへんイラチや。自分ではよう我慢でけへんことも、あんたの話になると他人事やから、わかったような口をきいて、大人のふりをしてた。
あんたが美幸さんや純平くん、知美ちゃんの待ってる家に帰ってけえへんようになったと聞いた時、僕は六甲山に登ったんやとピンと来た。死にに行ったというよりも、どうでもようなったんやろなあと思たんや。もちろん、美幸さんたちの前では、そんなことは素振りも見せんように、一緒に心配そうな顔をしてみせた。なんとなく、あんたがふらふらっと、おらへんなるような気がしてたんやろな。年が明けて、松の内が明けたばっかりやいうのに、あんたが海に向かうはずがない。あんたは寒がりやからな。あんたの自慢の大きなスクーターに乗って六甲山に行って、山の中で火でも焚きながら時間を過ごして、帰りたなったら帰る。帰る気がなくなったら、そのままおらへんようになる。なんとのうやけど、僕にはあんたのそんな姿が見えるような気がした。
賑やかなことが嫌いやったな、あんたは。覚えてるか、中学生の文化祭。クラスで劇をやるいうて、みんなダラダラと準備を進めてた。そしたら、あんたが急に教壇のとこに立って言うたんや。
「やるんやったらやる。嫌やったらやめようや」
急に大きな声で言うから、教室の中がしんと静まり返った。で、しばらくしたら、守山が言い返したんや。
「なにええかっこしてんねん」
守山は小狡いやつやった。家が金持ちでなあ。遊びに行ったら、みんなに飯おごったりするから、腰巾着みたいなやつがいっぱい引っ付いてた。そいつらが、守山の味方して、そうやそうや、と騒ぎよった。そしたら、あんた、教壇から降りて、まっすぐ守山のとこへ走って行った。
「オレはな、こんな子どもじみた劇が吐くほど嫌いなんじゃ。こんな子どもだましのことせなアカンのなら、ちゃっちゃとやって終わらせよう、言うとんねん」
「なんのことやねん」
守山はあんたの勢いに怖じけずいている感じやったな。
「みんなでわいわい、しょうもないことしてるのが嫌や言うとんねん」
あんたが重ねて言うと、守山は顔を赤くして机を大きな音させて叩きよった。
「どのクラスもなんかせなアカン言われてるんやから、しゃあないやないか」
守山がそうどなると、あんたは、守山の肩をぽんぽんと軽く叩いたなあ。
「可哀想やなあ。そらそうや、みんなやってるし、やらな先生に怒られるし、やらなしゃあないなあ」
そう言うと、あんたはもう一回、教壇に戻ったんや。
「こんな子どもだましのしょうもない劇、本気で楽しいと思ってるやつはおらん。おるんやったら、手上げてみ」
誰も手なんかあげへん。
「おらんのやったら、さっさと終わらせよ。終わらせて早う帰ったほうがええ」
そしたら、いままで黙ってた女子がざわざわし始めた。
「けど、背景とか作らんとアカンのちゃうの」
可愛い声で言うたのは、委員長やってた亀井さんやった。
「背景なんかいらん。いま、演劇の世界で流行ってるのは、素のままの舞台で、役者も私服で役柄を演じる芝居や」
「ほんまか」
「ほんまや。いまどき、吉本新喜劇みたいなもん流行らん。コンテンポラリー演劇や。スマホで検索してみ」
あんたが言うと、クラス中がざわざわし始めて、先生に見つからんようにスマホを持って来てたやつらが一斉に検索し始めた。
「コンテンポラリー演劇…。ほんまや。新喜劇みたいな背景のない写真もいっぱいあるわ」
「こっちは、出演者が全員、黒いレオタード着てるわ」
「オレは、昨日、NHKの教育番組で、コンテンポラリー演劇いうのを見たんや。あれなら、すぐできる。準備はいらん」
そこからは、クラスのみんながあんたの言う通りになって、背景なし、セリフなし、ただただ、制服を着た男女が舞台でフラフラしてるいうだけの劇を十五分ほど続けたんやったなあ。けど、あれは担任が小林先生やからなんとかなったんやで。小林先生はええ加減に見えるけど、以外に反体制でな。学校の言うことなんか聞くな、いうのが口癖やった。そういうたら、あんたは小林先生と仲良かったなあ。廊下ですれ違うたびに、なんやしらんけど、こそこそなんか言うては笑てたなあ。僕はそんなあんたが羨ましかった。先生と笑い合うなんて、僕にはなかったからな。
あんた知ってるか。あの時、予行演習に僕らのクラスだけ出えへんかったやろ。あれは小林先生の機転やったんやで。(続く)