003 うんと古書 独孤遺書

藤井貞和

小学一年生の『こくご』に、
うんとこしょ
どっこいしょ
民話の「おおきなかぶ」です。
みんなで力をあわせ、
ねずみさんもいっしょに、
大きなかぶをひっこ抜きました。

藤井さんは大きくなりまして、
民話の向こうを張り、
物語学者になりました。
うんとこしょ
じゃないですね、「うんと古書」
書庫は古文の、
変体がなであふれています。

最晩年にさしかかり。藤井さんは、
つまを亡くし、
物語研究会のなかまもつぎつぎに亡くなり、
国語学会からは相手にされず、
孤立を深めます。

遺書を書くことになり、
くちに浮かぶ戯れ唄です。
あら「独孤遺書」
うんと古書
うんとこしょ
どっこいしょ

 

(季刊『未来』誌の中塚鞠子「言葉でことばにコトバを言葉は――大岡信『思考することば』考」が新鮮だ。『思考することば』は、知らない人もいるかもしれないが、野沢啓が大岡の著述から14編の論考を、「Ⅰ ことばの力」と「Ⅱ 「てにをは」の詩学」との二章に分けて、これもじつに手にとりたくなる一冊だ。『未来』には野沢の「大岡信とことばの詩学5(完)」も掲載されており、まもなく単行本になるのだろう。日本語の詩や詩論をめぐる劃期がやって来るのだという予感がする。同誌にはモダニズム詩を探求する季村敏夫の一文や、上村忠男の連載も光り、季村は『現代詩手帖』のモダニズム詩の特集で巻頭に高木彬との対談に臨むなど、現代詩の何かがいま復活しつつあるかのようだ。〈ことばの力〉とあり〈「てにをは」の詩学〉とあるように、日本語学の新展開だと気づくのに時間はかからない。「てにをは」は『万葉集』に始まり、藤原定家につながる古文の詩学。国語学会はいまの日本語学会。詩が学界を引っ張るような歴史がまた動き出したってもかまわないだろう、とは藤井さんの我田引水。ははは)