サザンカの家(三)

北村周一

路地うらゆみえつかくれつとぶとりはメジロと見ればはや視野のそと
ゆくりなく来ては去りゆくメジロらの自在なるこころおもうつかの間

花花のかすかなる声ききいたるごときしぐさにメジロ来ており
なにごとか告げんごとくもちか寄りてメジロ可憐(いじら)し花もよろこぶ

闇ふかき落ち葉のもとにかそかなるもののかげありわが眼をさそう
落ち葉かげくらく澱めるひとところねむりたりおりつばさもつ目は
ふき溜まり木の葉の蔭に黄みどりのまろみがひとつめざめを知らず

かぜ降りて枯葉もみじのしたかげにみどりあやしく羽顫えおり
枯れおちば纏えるごともつつまれて吹きたまりおり鳥のかたちに
吹きたまるかぜの澱みにとりのかげしずけくあればわが見たりけり

かそかなるとりのかたちにもののかげ澱みつつありかぜの溜まりに
打ちつけに小暗きまどのそのもとにいのち落とせしつばさ黄みどり

ねむる野鳥(とり)の半眼の目になみだ溢れしずくもて知るそのたまゆらは
そののちにホワイト・アイと知りしことも 骸ひとつを土に埋めつつ

あとりえの出口入り口ガラスなればなにおもいしか鳥飛んでくる
ガラス扉にうすらのこれるキジバトの絵すがたあわれその翳を拭く

ガラス扉に静止画となる恥(や)さしさは つばさ乱れてわれをうしなう
むくろひとつ葬りたれば鳴くとりの ちかくて杳いキジバトのこえ
≪Peace≫の鳩のごときうつし絵ガラス扉にみるは切なし灰いろにして

眼差しはときに光(かげ)さえ見うしなう 物質と夢とのあわいに揺られ
ひとのこころかるくあしらう野の鳥のうごきに似せてあゆみだす翳

よき声のために捕らえし野のとりの かごの中より友呼ぶこえは
白咲けばぴんく綻びまたも赤 寒色系は見ずやさざんくわ
庭のサザンカ咲いたとてメジロ来ずミツバチもスズメも消えてさびしい秋だ

地のうえに落とせしツバサ拾わんに記憶をもとにもどすこころみ
どこへでも飛べるおもいに指のさき伸ばし置くなり羽根の生ゆるまで

新まりし
秋もほろほろ
冬は来て
春を待てずに
夏の烈しさ

行き止まり数多置かれし路地のうら大洪水の予感満たしめ
えんえんとつづくおうたのさざんかのかきねのかきねの曲がり角何処

ばっさりと大ハナミズキ取り払われてここより先はよそさまのお宅
さざんかのかきね見事に刈り揃えられわっさわっさと進む歩兵ら

根元から伐ればほのかに香り立ち花色おもいだせずにごめんさざんか
自分ではどこへも行かないサザンカのかきねはのこりハナミズキゆきぬ