イチゴ白書

北村周一

女人のみの下宿屋に集いかき鳴らす
 ギターはさむしコタツ越しにて
手をふればわすれないでというように
 世田谷代田駅に昏れたり
ショーガ焼きはA定のみに通いしを
 経堂駅近“おのちゃん”恋し
小銭手に暮らしはじめし細山は
 読売ランド前駅遠し
百合ヶ丘に教会ひとつありまして
 そこの神父はころされたるらし

草カンムリに母と書き足すイチゴかな
 れんにゅうなめなめ母子よみがえり
(さじもて母が苺をつぶすそのたびに
 ひらく彼岸のはなのくれない)
勤めよりもどり来たれば旧道に
 父のかげあり夕べのみちは
旧道のまだまだ明るいゆうべには
 母が来ていつわれ待つらんや
ひさかたのヒカリにぬれるじてん車の
 あと追うように走り出すかげ
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裏口は肉屋なるらし赤ちょうちんの
 名は『みいと』meet(meat)unmet
そういえば火の見櫓が目印の
 『雨多湖』で飲んだね父子三人きりで
そういえばむかし『雨多湖』の『みいと』でも
 飲んだね横におとうとも居て
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そういえば夏のさかりの奥能登は
 キリコ大祭 われも担ぎき
星すずし火も灰皿もひとに借り 
 撓うキリコの若々しけれ
奥のとより吹きくる寒き音きこゆ 
 よあけの晩にすべらぬように
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灯の中に火の子の眠るしずけさを
 告げんごとくにゆきふりはじむ
陽のあたる坂みちまでは遠けれど 
 そぞろに冬至の明けにけるかも
穴という穴に気を吐くうがいの日 
 白衣の女医ののど仏かな
ひったりとくっつきすぎると腐るらし
 笊のミカンはほのぼの甘し
笊の中の十三番目の早生ミカン
 ひとつ戴く罪びとのごと
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酒失なる記憶はなべて無にせんに
 のみ干す酒のコップ酒かな
一見穏やかにみえても核心は
 ベンチの上のウメボシの種