ちいさな床屋をみかけると、建物全景を写真に撮りたくなる。わざわざ探しに出かけることもカメラを常に持ち歩くこともないけれど、二十歳過ぎからの癖なので、結構な枚数になっている。フィルムで撮ってプリントして箱に入れておくだけなので、必要な一枚を探すには全体をひっくり返すことになる。デジカメで撮ってCDに焼いたこともあるけれど、こうして度々ひっくり返して記憶を塗り重ねていくことが、わたしにとっては一番いい整理法みたいだ。
家庭用のインクジェット・プリンタでも写真がきれいに出力できるようになり、プリンタ・メーカーのみならず、専用の紙を販売するところも増えてきた。PCM竹尾では、4月下旬に「DEEP PV シリーズ」として新アイテムが加わるようだ。186g〜300gと厚めでふんわりした質感は、プリント写真の再現ではなく、印刷された写真の美しさを楽しむためのものである。こういう紙なら、数枚の写真を選りすぐって小さな冊子を作ってみたくなる。片面印刷対応とのことだが、表と裏の質感の違いを活かして頁構成すれば、両面印刷して糸かがり本にすることも可能だろう。ちなみに、A4、A3ノビともに縦目、A4一枚136円〜272円といったところ。
DPE窓口やフィルムメーカーのウェブサイトなどで、写真集のオーダーを受けるところがある。写真やコメントのレイアウト、表紙のバリエーションなどは各社異なるが、だいたいどこもCDサイズで24頁以下、中綴じミシンかがりした本文に、コの字型のカバーを貼りつけるという、絵本によくある製本法だ。いずれも、本文紙はアート系、表紙はPP貼りで、やけに丈夫なつくりが全体の野暮ったさを引き立たせ、こちらの好奇心をそぐ。どうしてそんなに丈夫にするのか。耐水性のためばかりとは思えない。「アルバム」からの発想が、丈夫な表紙とテカテカ本文紙を大前提にさせているに違いない。
この仮説を確かめるべく、「Photo Imaging Expo 2005」(2005.3.17〜20 東京ビックサイト)に出かけた。いくつかのブースで、写真集のサービスをみた。ホワイト・フォトブックとでも呼びたいような、究極の「写真集」もあった。これは、ネットで送られた写真データをプリントして両面テープで貼るというもので、表紙は背バンド付き風の革装丁、タイトル箔押し、本文紙(というかそれはアルバム台紙そのままなのだけれど)は1ミリ厚、20頁程度だが重たくて、ものすごい豪華である。これで値段は、数千円。
アルバムでは売れないので、写真集の束見本みたいなもの(=ホワイト・フォトブック)として安くリサイクルしているんでしょう、きっと。これは極端な例だけど、他にもいくつかみるにつけ、仮説は正しいように思えてきた。写真系の企業は、アルバムの延長としての写真集をより安く提供することに邁進し、努力実ってほぼ底値の態である。さぁこれからどうするか。全体として、アルバム系写真集ではまずい、と感じているようにはみえない。なにしろ、「このテカテカの紙はいやなんですけど、どうにかならないんですか?」と問うと、「オンデマンド印刷ですからねー、紙は選べないんですよー」とあっさり応えるところがほとんどですから。
ウェブサイトでいくつかの写真集サービスをおこなっているアスカネットの応えは、ちょっと違っていた。「マイブック」は他社とほぼ同じだが、「マイブックデラックス」では本文紙をラミネート加工せず、特殊ニス加工しているとのことで、紙の表面の印象がいくぶん柔らかい。聞けば、ラミネート加工するのは、オンデマンド印刷専用の液体インキの剥がれと変色を防ぐためだが、結果、独特なテカりが生じると言う。その機能を持たせながら、少しでもマットに仕上げるために、通常は印刷機のあとにかがりと折り機がセットされているが、そのあいだに機械を入れ、ニスびきしているのだと言う。表紙のPP貼りや透明ビニールケースにはまだ疑問が残るけれど、うれしい工夫じゃないですか。
この「マイブックデラックス」をずっと試したかったのだが、編集ソフト(無料)がWindows版のみだった。4月末、ようやくMac版が出るようです。