代書屋稼業

大野晋

オリンピック前の世間を代作問題が騒がせた。鳴り物入りで宣伝していたクラシックの作曲家の作品が実は代だったというのだが、なんとなくその報道は釈然としない。いわく「だまされた」ということらしいが、そんなのはこの世の中にはたくさんある。今回も著作権の権利関係は問題にならないらしいので、「ふうん。そうなの。」と言ってしまえばいいような話のような気がする。

古くは、昔のお殿様の書状はたいていは有筆と言われる書の達人の代書だったといわれる。そんなに古くなくても、少し前なら代書屋が恋文の文面を考えてくれたし、いまなら、行政書士が代わりに書類を作成してくれる。

もっと考えれば、アイドルやタレントの著作物はゴーストライターの代書だというのはもう公然の秘密のはずだ。

週刊雑誌に作品を載せている漫画家はアシスタントという名の背景や小物を描いてくれる代書屋を雇っているのは普通だし、私の監訳した本だって、翻訳は翻訳会社が下訳をやってくれている。(まあ、これがとんでもない訳だと、後作業はとてつもないことになってしまうのだが)

音楽の世界だと、誰かの書いた曲を誰かが別の編成に書き直すなんてことは多くされている。例えば、ムソルグスキーの「展覧会の絵」だってラヴェルの編曲のオーケストラ版の方がよく演奏されるし、そもそも、「はげ山の一夜」なんて曲は作曲者の作ったオリジナルよりも、後で編曲された方の曲の方が有名になってしまっている。そういえば、ストコフスキーという指揮者は演奏する曲を勝手に編曲するので有名だったっけ。

ついでに言うと、この文書だって。。。
いやいや、こんな文書を代書するなぞという代書屋の風上にも置けない連中ではないはずだ。その辺のプロ根性は代書屋だってあると思うんだよね。

2月はとても短い。そして、体調を崩した私にはこれ以上の長さの文章を書く余力は残っていない。今月はこの辺で勘弁してもらってもいいでしょうか。