アジアのごはん(53)豆乳生活

森下ヒバリ

わたしは長らく、豆乳はアレルギーで飲めないと思い込んでいたが、どうもそうではない、というのが判明した。わたしの大豆アレルギーは、大豆の皮の部分に集中するらしく、質の良い豆乳をOリングテストしてみると、身体によい反応が出た。え、豆乳は飲んでよかったんだ。

さらに、牛乳もヨーグルトなら大丈夫だったりして? とテストしてみたが、どんなに質が良い製品でも、牛乳、ヨーグルト、チーズすべてNG。いや、分かってたんですけどね。わたしは乳製品アレルギーです。でも、たまにチーズをちょこっと食べたり、ケーキを一切れ食べたりしても、まあ死ぬほどの症状は出ない。一定量を超えると気分が悪くなってくるけど‥。

たしかに、豆腐や揚げは毎日のように食べてきた。豆腐はだいたい4分の1丁ぐらいなら食べられる。それ以上は、身体が拒む。口に入らないのであって、乳製品の時のように気分が悪くなるわけではない。しかし、煮豆やおからは、ある一定以上食べると口が拒む前に気分が悪くなる。一定といっても、割と少量だ。以前うっかり黒豆コーヒー(皮を焙煎したものか?)を飲んで、ふらふらになって寝込んだこともあった。枝豆も、中の豆についている薄皮をいちいちはがして食べている。黒豆の枝豆などは、それをしないとやはり倒れそうになる。

豆乳はどうかというと、飲むとお腹が張る。それが気持ち悪くてしんどい。そのままごくごく飲んでもあまりおいしいとは思えないし。なので、たまに豆乳を試してはやめる、のくりかえし。これは、アレルギー反応ではなく、消化力が弱いせいだったのか。

大豆製品が、牧畜民族以外のアジア人のほとんどにとって何千年にもわたって健康を支えてきたすばらしい食品だということは、疑いようがない。まずは良質な植物性タンパク質をたくさん含む。そして、大豆に含まれる成分はコレステロール値を下げ、血糖値を安定させ、動脈の状態を改善し、腸の状態を整え、結石まで溶かす作用があるという。

しかも、大豆のイソフラボンは女の強い味方である。更年期にさしかかり女性ホルモンが減っても、イソフラボンが人間の女性ホルモンのエストロゲンと同じ働きをしてバランスを整えてくれる。それだけでなく、乳がん細胞のエサとなるエストロゲンのかわりにレセプターにひっついて、がん細胞を餓死させてしまう、ということまでやってくれるのだ。すばらしきかな、大豆。

どうも最近、まわりに乳がんの知人友人がちらほらと増えてきた。更年期障害も改善されるし、乳がん予防にもなるし、ここはもっと大豆製品の摂取量をふやしたいところである。放射性物質はどうやっても体に入っているだろうし、中国からの汚染物質満載のpm2.5に黄砂も飛んでくる。ドクダシも大切だが、腸の機能を高め、身体の免疫機能を高めることも重要だろう。

しかし、豆腐や揚げはもうこれ以上食べられません。そこで、ふと小耳にはさんだのが豆乳ヨーグルトである。なるほど、乳酸発酵していれば、消化もスムーズ。豆乳はアレルギー源ではないと分かったし、これは試してみなくっちゃ。

調べてみると、豆乳を発酵させるのにいわゆるブルガリア菌や市販の牛乳ヨーグルトを種にして豆乳で培養するタイプと、米についている乳酸菌を利用して種を作り豆乳で培養するタイプがあることが分かった。米の乳酸菌を利用するものは、いろいろな作り方があり、米のとぎ汁から乳酸菌を培養する「米乳酸菌液」を作ってから、それを種として豆乳で作るもの、玄米や白米を直接豆乳に投入して作るもの、米粉や玄米粉を豆乳に混ぜるものなどがあった。

もともと米には、複数の乳酸菌や酵母がたくさん住みついていて、精白してもある程度残っている。その米つき乳酸菌たちが人間の腸には大変いいらしい。最近は米乳酸菌を使ったサプリメントも出ているほどだ。この乳酸菌は免疫細胞を活性化させる作用があるのが注目されている。考えてみれば、長年米を食べてきた人々にとっては、なじみのよい乳酸菌であるわけだ。さらに、それをなじみのよい豆乳で発酵させればさらに素晴らしい‥はず。
さっそく豆乳ヨーグルトを作ってみた。

まずは、米乳酸菌液をつくる。お米3合を精白して(8〜9分搗きが望ましい。白米そのままでも可)、500mlぐらいの水で研ぐ。すると、濃いとぎ汁ができるので、それをペットボトルに取り置く。お米はそのまま研いで、ふつうに炊いてごはんとしていただく。とぎ汁は、なるべく空気に触れないように口の根元ぐらいまで入れる。そこに塩小さじ1、白砂糖大匙1を入れ、ふたを閉めてよくふって混ぜる。口をゆるめて、あたたかそうな場所に置いておく。一日一回ふって混ぜる。7日から10日でほのかに酸っぱくなったら出来上がり。

え、一週間も待つのか〜。早く食べてみたいぞ。それまで待つ間に、簡単な作り方という玄米直接投入方法をやってみることにした。豆乳500mlに、さっとすすいだ玄米大匙5杯を入れ(茶葉入れの袋などに入れると後がラク)、軽くふたをしてそのまま放置する。

いちおう発泡スチロールの箱に湯たんぽと入れて、きちんと保温してみた。数時間後、ふたをパコンと開けてみると、まったく固まっていない。やっぱりダメなのかな、と思いつつもそのままふたをして寝た。翌朝‥ふたを開けてみると、つるりと固まっているではないか。しかもかき混ぜると、もろもろと炭酸発酵までしている。少し冷やして食べてみると、あっさりした味。なんとなくヨーグルトっぽい。器の底には、玄米がそのままヨーグルトにまみれて沈殿している。

それにしても、ただ玄米を入れただけでヨーグルトができるとは。う〜ん、ミラクル! めちゃくちゃ簡単! るんるんと半分取り分けて、残りをうつわに入れ替えて、乳がんになった近所の友だちの所に持って行く。「ほら〜、免疫機能が高まるらしいよ。乳がん予防に豆乳ヨーグルト!」それを受け取って、さっそく一口食べた彼女は顔をしかめて「ぬか臭〜い!」さらに「何でも食べるわたしが初めて残した」などとすばらしいお言葉をくださった。すっかりテンションが下がってとぼとぼ家に帰り、試しに残りを口に入れると、やはりぬか臭かった‥。はじめに味見した上の方はそうでもなかったが、下の玄米に近い方はちょっと食べられない味。しかも、玄米をそのまま入れたので、固い玄米が時々まじって口に入るのも気分がよくない。う〜む大失敗。

なんとかぬか臭くならずにつくれないものか。残りのヨーグルトを種に使って培養すると、ぬか臭さが薄まるかもしれない。で、作ってみるとかなり薄まった、ような気もするがやはりかなりぬか臭い。次は、玄米粉を直接豆乳に混ぜる、という方法で培養してみた。これは、いまひとつの風味なうえに、ザリザリと粉が舌に残る。

米乳酸菌液はまだできていないので、次は市販の牛乳ヨーグルトを買ってきて、混ぜて作ってみた。LG21というヨーグルトを大匙1杯、少し温めた豆乳を250ml入れて混ぜ、そのまま食卓に置いておくと、4時間ぐらいで固まった。早いなあ。で、食べてみるといわゆる普通のヨーグルトのさわやかなお味。友だちの所に持って行くと「おいしい〜!」とパクパク食べ始めた。ふ〜む。おいしいし、豆乳を消化しやすくして食べるという目的には合っているけどね。なにか、味がくどいような気がする。もちろん、牛乳のヨーグルトよりは、さっぱりしているのだが。

そうこうするうちに、米のとぎ汁発酵液もほんわか酸っぱくなってきた。米乳酸菌液30mlにちょっと温めた豆乳(ぬるめ)250mlを加え、混ぜてラップでふたをして、保温にティーコゼーをかぶせてみる。もう気温も上がってきたので、室温でだいじょうぶ。

一晩おいて、ティーコゼーを外してみると、おお固まってる! ちょっと冷やしてからいただくと、あっさりした中にもうまみが。身体にすっとなじむような味である。ジャムなどを入れてもおいしい。いいね、これ。いろいろ味見をさせられて「え、また食べるの‥」と不満げだった連れ合いも「これなら毎日食べてもいい」という。
というわけで、豆乳ヨーグルトは米乳酸菌液で作ることにして、日々すこやかに豆乳ヨーグルトの毎日である。米乳酸菌液を作るのが面倒ならば、市販の好きなヨーグルトを買ってきて混ぜれば簡単にできるので、ぜひ豆乳ヨーグルトをお試しあれ。

もちろん、菌のことなので、たまには失敗もあるだろうし、腐敗菌が繁殖してしまう場合もあるかもしれない。そういうのは、一口舐めれば苦いとか、吐き気を催すとか、異常が分かるので避ければいい。自家製漬物や麹、糠床つくりと同じようなものである。

余談だが、豆乳ヨーグルトで検索していると、米乳酸菌液や自家製ヨーグルトを不潔だとか攻撃するサイトやツイートがある。どうやら米乳酸菌液・豆乳ヨーグルトを勧める人たちには、自分で免疫機能を高めよう、放射能から身を守ろうという意識が強く、つまり反原発派が多い。これを攻撃する人たちは、科学的ではないとか、雑菌だらけで毒だとか、放射能対策にはならないとか、さらには放射能関連では御用学者のような発言が多く、どうみても原発推進派プラス権威主義。いやはや。