サンタクロース

さとうまき

今から30年近くも前のこと。大学生だった僕は、とあるデパートのアルバイトでサンタクロースをすることになった。サンタクロースの格好をして、車にのっておもちゃを届けるだけで、一日一万円がもらえる。説明会では、「中には、サンタクロースを信じている子どももたくさんいるので、夢を壊さないようにしてください」といわれても、真昼にこんな脱脂綿の付け髭でだまされる子どもがいるのだろうか。僕自身は、小学校に入るとすぐに、サンタクロースが親父だというのを見破っていたから。ところが、実際やってみると、僕を見て興奮してしまって、目がランランとなっている子や、わざわざ手紙を託してくれた子もいて、なんだか、こっちが感動してしまったのだ。その当時はサンタクロースの衣装も100均ショップで売られておらず、衣装そのものが珍しかったのかも知れない。

2011年、東日本大震災で厳しい一年だった。

埼玉県の加須には、福島県の双葉町から避難してきた人達が高校の跡地でくらしている。仲間が炊き出しに行くので、その横でサンタの格好をしてチョコレートを配ることになった。サンタがやってくると喜ぶだろうなと。30年前の感動がよみがえる。しかし、今年は被災地に、サンタクロースが押し寄せているという。加須の避難所には、数日前に本場のフィンランドからサンタがやってきたという。さすがに100均でかったコスチュームだと偽者だとばれてしまう。そのために、ヒゲを伸ばしたのだ。白髪も混ざっているものの却って薄汚くなってしまった。白く染めようとしたが、ヒゲは太いためか、全然そまらない。結局つけひげを着けた。
実際、チョコを配ったが、お年寄りや、子どもたちが、チョコを喜んでたくさん持っていってくれたが、誰も僕のことをサンタだとは思ってくれなかった。

クリスマスイブは、久々に、家族がそろうことになった。妻と2歳半の息子は、3月15日に東京を去り、僕は被災地に向かったのだ。しばらく見ないうちに、でかくなった息子は、よくしゃべる。駅に車で向かえに行き、家についたところで子どもは、先に家に入れて、僕は、車庫で、サンタに変身して息子の前に登場したのだ。
「あ、パパが、サンタの格好している!」
息子は大喜びだったが、なんとなく哀しかった。

2012年、今年はいい年でありますように。