製本かい摘みましては(76)

四釜裕子

手帳を新しくした。10月始まりの手帳にしているから10月中には買い換えているのだけれど、さあ来週には切り替えよう、切り替えよう切り替えようとしているうちに12月がやってくる。表紙の角はきりっとたって、ページが開くのを押さえるゴムバンドもぴんとしていて気持ちがいい。はさんだままの葉書や切り抜き、振り込み用紙にボールペン、いくつかのページを破いて、まずはそのまま移行する。切った爪や取り出した耳あかを放っておくとたちまち生気を失うのに似て、はさんであったものを抜かれた手帳はいっきに古びる。ついさっきまで書き込んでいた予定やメモさえ彼方に見える。

ペドロ・コスタの『溶岩の家 スクラップ・ブック』刊行の知らせの葉書もその中にあった。映画『溶岩の家』(1994)のために監督が作ったスクラップ・ブックをそっくり印刷して800部制作するというもので、2010年秋の予定が遅れてこちらも忘れていたのだが、つい先頃書店で見かけて買っていた。A5判本文142ページ、背幅は27mm、オールカラーで、美篶堂が「小口糊絵本製本」で仕上げている。スクラップ・ブックを見開きで撮影した画像を本文紙に片面印刷し、表を中にして二つ折りして小口側10mmほどを糊付けしてある。粘着性のあるボンドで背を固め、2mm厚のボール紙を芯にした表紙は背に接着せず空きを作り、したがって本文はよく開く。本文紙は厚手で2枚貼り合わせて1ページの勘定だから、全体に重く硬い。

実際のスクラップ・ブックは、写真で見ると背幅が10mmくらい、台紙となったノートは方眼地のごくふつうのものだ。監督自身そして映画に携わる多くのひとにどれだけめくられたのだろう、厚みは3倍くらいにふくれあがっている。「書かれたシナリオはすぐに捨ててしまった。すべてが変更され、放棄された以上、頼るものはこのノートだけだったのかもしれない」(本に添えられたリーフレット「記憶の交差する場」より)。このノートをシナリオ代わりに映画は完成し、監督の手元にノートが残った。

『溶岩の家 スクラップ・ブック』の紙面は実際のノートの画像の四方(天地小口)に5mmくらいのあきをもたせてある。ノートの角は折れたり破れたり。その傷みを好ましくながめながら、破れも折れもしなそうな、むしろ親指に突き刺さりそうな厚いページをめくる。