イブラヒムとししゃも

さとうまき

イブラヒムが、4年ぶりにやってきた。イラク人が日本に来ると大変なのが食べ物だ。イスラム教徒は、豚肉を食べてはダメだし、鳥や羊や牛でも、ハラールミートといわれるイスラム教にのっとった殺し方をした肉じゃないとだめなのだ。イブラヒムは、腹が減ると機嫌がわるくなり周りを困らせていた。

「大丈夫だ。魚と、野菜だけでなんとかなる。いざとなれば断食するさ」と今回は力強い。前回食わせたわかさぎのフライを結構気に行ったみたい。

いつものように、珍道中のツアーが始まった。確かに、今回のイブラヒムは、成長していた。南アフリカや、スリランカからもゲストが来て、石巻国際祭りに参加したが、「国境を越えて災害や貧困に取り組む人と人を結ぶ」という主旨も理解して、イブラヒムが一番、感動的なスピーチを各地で繰り広げてくれた。

石巻では、仮設住宅を訪問したが、そこでは、妻を津波で流されたショーゾーさんというじいさんと友達になったらしい。普段はふさぎこんで、昼間っから遺影を前にただ酒を飲むだけなのだが、イブラヒムと意気投合して、「明日がある」を歌ったという。

イブラヒムも、妻を白血病で亡くし、イラク戦争で仕事もなかったときは、ただ落ち込むだけだったのを思い出す。そんな時に、僕の友人が、イブラヒムに「明日がある」を教えていたのだ。イブラヒムはその歌を気に入って自分に言い聞かすように歌っていた。そして、今度は、イブラヒムが日本を元気にしようと頑張っている姿は泣けてくる。

イブラヒムを歓迎する宴が始まった。彼は、お酒も飲めないし、焼き鳥もダメなので、誰かが、ししゃもを買って来てくれたそうだ。しかし、イブラヒムに取材が入り、インタビューがなかなか終わらない。隣では、宴会が盛り上がり、いつのまにか、イブラヒムのししゃもは、誰かが酒のつまみに食ってしまったのだこれを見たイブラヒムは激怒し、通訳の加藤君にあたり散らしていたそうだ。イブラヒムの機嫌は、翌日になっても直らず、2日後東京に戻って、ハラールミートのチキンを食ってようやく、直った。

それは、ともかく、今回イブラヒムは、募金をイラクで集めて来てくれた。イブラヒムの子どもたちがおやつを買うお金をためて、募金してくれたり、再婚した妻は、結婚指輪を日本のために使って欲しいと寄付してくれたのだ。集まったお金は825ドル。郡山の幼稚園に寄付させていただいた。

ところで、イラク政府は、8億円ものお金を日本に寄付している。結構な金額だ。イラクだけではなく、他の国からも多くの寄付が集まっているという。しかし、残念なことに余り知られていない。頑張ろう日本とかよくいうが、日本だけで頑張っているのではなく、多くの国の人々に僕らが支えられているんだということにいい加減気がつくべきだろう。

イブラヒムの来日にあわせ、絵本「イブラヒムの物語」を作りなおしました。2000部刷りましたが、ほとんど売れていません。600円で売っていますので是非こちらにアクセスを
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