涼しきや――翠ぬ宝81

藤井貞和

ゆくはさびし 山河も虹もひといろに

思想の詩終わる六月 きみがゆく

水売りの声も届かぬ幽境へ

炎天に苦しむこともないだろう

五七五 終わるかきみの初夏に

幽明のさかい越えゆく 涼しきや

衰うることなき燃ゆる五七五

壊滅を見届ける 清水昶(あきら)ゆく

(清水=夏の季語。昶(あきら)さんは晩年、俳句ひとすじでした。相伴します。)