流浪です。放浪なのです。翻訳のできるところを探し求めてあちこちさまようのです。必要なものをすべてつめこんだ鞄を手にして、あるいは背負って、あるときは西へ、あるときは東へ、また別のときには南へ北へ。どこでも翻訳ができるを信条に、ふらりふらり。
……ずっと同じところにいては、どうしても緊張感が切れてしまう! ゆるんでしまう! 集中力だって切れてしまう! 頭をいつも適度に冴えさせるためには、定期的に、自分の居場所を変えねば! そうしなければ翻訳力を保てない! ああ! これは定め! 課せられたる呪いのようなもの!
私は行く、仕事のできる場所を求めてっ。
。。。
というかまあ、何というかですね、今回は前回のお話の続きなわけなんですけどね、一ヶ月もすると以前のテンションを忘れてしまって、あれっ、どういう話をするつもりなんだっけ、と思いながら書いていたりするのですが、とにかく私、上記のような理由であっちこっちへ行ったりするわけなんですね。
昔からそうなのですが、どうしてもひとところに落ち着けないというか、ふらふらしてしまう性分で、じっとしてると怠けたり鈍ったりするので、動かなくちゃどうしようもなかったりするんです。どうも、気持ち的にも、からだ的にも。で、一応仕事場っていうものがありはするんですが、そこはあくまでもベースキャンプ代わりで、そこから外へ飛び出したりするんです。
とはいえ、ものすごく長距離移動してしまうと、それはそれで時間がもったいないので、普段はかなり狭い範囲をあっちこっちと行ったりするわけでして。よくある行き先は、大学構内です。うちの母校は私鉄で二駅分くらいの広さがあって、なおかつ至る所にそれなりの図書館・図書室があるので、気分によって、あるいは必要なものによって各地を使い分けたりしまして。
たとえばいちばん中央のとうちの学部・大学院のは資料が豊富なので、特殊な辞書・事典類を使いたいときはそこへ行きますし、文学のとこはパソコンなど電源の必要なものが用いやすく、教育には絵本があって、経済は英国近代の政治文化資料、化学のとこは構内でいちばん美味しい学食が近く、ほかにも工学のとこは工業規格があるから暇つぶしに最適で……云々。
そんななかでも落ち着いて快適なのが情報系の図書室で、なぜかいつ行ってもがらがらだし、自然言語処理も扱うところだから辞書もそこそこ充実してて、息抜きになるコンピュータ系の読み物にも事欠かない(私の娯楽としての読書は10進分類だと9以外が圧倒的に多いのです)。特に夏になるともっぱらここです。
もちろん公立の図書館に行ってもいいのですが、最近は持ち込みが禁じられているところも多いので、本を借りたり返したりする以外には行かないことが多いです(それでも借りるのは年間二百冊弱ぐらい)。翻訳をする場所としては不向きなところが多いのですよね。公園とか土手とか、野外もありますが、そのときは校正なり資料読みなり、どちらかというと書くよりも読む方になりまして。
そうやって部屋から部屋へ転々としつつ、全然昼間は在宅してない翻訳家が私なのですが、将来は規模を大きくして裸の大将みたく行く先々で翻訳しながら、かの地で起こった事件を解決し、そそくさと立ち去るや〆切近い原稿をふんだくるための担当編集が追っかけてきたりして「あのひとは××先生なのです」「えええええ」「はっ、ここに残されてるのはまさにその翻訳」「××先生待ってくださ〜い」みたいな、コントが繰り広げられると楽しそうですが、妄想にとどめておくのがいいかしれません。
ちなみにオンサイトといって、派遣社員みたいにある会社へ一定期間通ってやる翻訳もあるのですが、個人的にはあんまり数多くは受けてないです。しかし想像してみるに、こっちの場合も流しの翻訳家みたいな感じで、行く先々の会社でかの地にある問題を解k……(以下略
それはさておき、もちろん仕事場のなかで翻訳をすることもできます、というかあります。ただこのなかでは「椅子に座って机で翻訳する」ということはほとんどなくて、「寝そべって作業する」のが基本っ。ベッドの上にうつぶせになって、顎から胸のあたりにクッションを挟んで、頭の前に紙なり電子機器なりを置いて、ぺけぺけぺけぺけ(おなじみ執筆擬音)。
ちなみにこの原稿もその体勢で書かれているわけで、寝ながら執筆するというのはなかなかリラックスできてよいものがありまして。そもそもこんなことをし始めたのは、どうしても床に伏せざるをえない状況なり、集中力がぱっつんぱっつん勝手に切れていってしまう苦境なりが長期あって、それでもやることやらねばならぬ、ということで編み出されたものなのですが、割合昔からそういう崖っぷちっぽいなかで何かする訓練をつまなきゃしょうがない人生だったので、今となっては慣れたものというか何というか。
しかし疲れているときに、寝そべりながら執筆なんかすると、だんだんほわほわしてきて眠くなってくるというかまさに今そんな感じなので、とにかく今回はこのへんでおやすみなさい。zzZ。