大雪に見舞われている地域の方には申し訳ないが、東京は大晦日以来の乾燥注意報が続く晴天の日々だ。今日も風は冷たいけれど、陽の光のなかに春が混ざっている。次の季節の予感を感じさせる頃というのは、いつの季節でも胸がいっぱいになってしまうものだけれど、もうすぐ春というこの時期は、何かが始まる予感とともに独特のワクワク感をつれてくる。
日曜日の午前8時。国道246に面したファーストキッチンの2階席。道路に面した窓際の特等席で、ノートを広げていそいそと楽しそうに何やら仕事をしている人がいる。日曜日の朝、まだ静かな国道は、さながら浜辺のようで、道路にむかって少しせり出したその席は、海辺のテラスに見たてられなくもない。
洗ったばかりのような静かな朝を眺めながら、娘のことを、つらつら考えている。中学3年生の娘は、もうすぐ高校受験だ。何をしていても受験生という言葉が付きまとう1年間もあとちょっとで終わる。教育熱心な親ではないけれど、それでも、へこたれそうになる折々には、娘を励ましてきた。
12月になって、自分の実力というものも明らかになってくる頃、私立高校の推薦入学に決めてしまうクラスメートが続出した。近年少子化で、私立校の場合、現在の成績を提示して合格を約束してもらうという事もできるのだ。色々とやってみたあげくに不合格になるよりは、確実に安全な策をとった方が賢い選択なのかもしれない。私立校の方が大学受験に向けた指導が行き届いているので、公立校に行って塾に通うよりはかえって経済的ともいえる。2月末まで結果がわからない方法に掛けるのは、ばかなやり方なのかも…。
私立に決めてお正月を迎えている級友をうらやましがる娘に対して、「そういうものじゃないだろう」という根拠のない違和感だけで何と説明していいものやらわからなかった。
そんな時期に、公立校の学校説明会があった。校長の第一声は、「高校は皆さんを待っています」というものだった。入れるならどうぞという態度がオーソドックスななかで、この一言は新鮮だった。そして、「試験の前の日まで、皆さんの実力は伸びます。受験というのは皆さんにとって試練かもしれませんが、試練は人を成長させます。ぜひがんばってください。」というものだった。この時期に受験生が抱えている悩みを良く知っている人の言葉だと思った。
受験は何を子どもにもたらすのだろうか。せめて、いろいろ読んだり、考えたりするのを無駄と思わずに、そういうことに親しむ人になるきっかけになってくれればと思う。日曜日の早朝に、ノートを広げて仕事をしている人を眺めながらそんなことを考えた。