オトメン と指を差されて(30)

大久保ゆう

「たいやきうどん」……それは私が長年追い求めてきた料理。いつか作って食してみんと、思い始めてかれこれ二十年。「たいやき」+「うどん」という未知なる領域へと、ついに私はその一歩を踏み出したのです……

お読みの方は一体何のことかと思われるでしょうが、ご想像の通り、そんな料理が実際に存在しているわけではありません。むしろ存在していたらうっすら恐怖すらするのですが、これ、実は私の幼い頃の空耳なのです。

自分世代の幼少期が誰しもそうであったように、やはり私もTVゲーム好きだったですが、小さい頃よくやったソフトのなかに『ぷよぷよ』(あるいは『魔導物語』)というものがありました。ご存じの方には説明の必要はないかと思いますが、この作品の主人公にアルルという少女がいまして、その子が魔法を使うのです。

たとえば「ふぁいやー」「あいすすとーむ」などなど、このあたりは簡単な英単語なので、子どもながら間違えることもありませんし、だいたいの意味がわかるのですが、ひとつだけどうしてもこうとしか聞こえないものがありまして。

「たいやきうどん!」「たいやきうどん!」

はてさて、何のことやら。辞書をくってみてもあるわけがなく、人に尋ねてみても知らぬと言うばかり。「なにそれ?」と首を傾げられようものなら、当のゲームの音声を聴かせ、「ほら!」「う〜ん確かに」と言わしめるものの解決には至らず。

そこで子どもは子どもなりに考えてみるのが常でありましょう。「たいやきうどん」とは何であるか。おそらくそれは「たいやき・うどん」と区切るべきである、というひとまずの推測をつけていたので(「たい・やきうどん」と切らなかったのはその少女の発音による)、どちらも食べ物であるからには、そのふたつが組合わさった料理なのだろうという想像に至るのもうなずけますよね(ね!)。

そう、たいやきが上に乗ったうどんなのだ、それは――こうして、周りの人は知らないがきっと世の中にそういう食べ物があるのだろう、きっと出会ったあかつきには食せるのだろう……と子どものときに思ってはや二十年、もちろんそんなものはありませんでしたよ! どこにも! あるわけないじゃないですか!(すごいアホですよ私!)

とまあ、それで終わればよかったものを、ふと大人になると思い出してしまうわけですよね、何かの拍子に。そういえばそんなのあったな、と。しかも大人なので、一人暮らしの自炊なので料理は自由なわけですよ。ほら、いけない考えがむくむくと、心のなかで育っていくわけで。今なら……できるっ、アルルさん、オレやってみるよっ!てな感じで。(ちなみにその当のアルルはかわいい女の子でした。)

そして幾多の失敗と試行錯誤を乗り越えて(あれとかこれとか、本当にばっよえ〜んな味!)、とうとう私とアルルさんの「たいやきうどん」は完成に至ったのです! ここでそのレシピを大公開しましょう! 誰ひとりとして得しませんが!

1.まずたいやきを用意します。これは鉄板で焼いたたいやきがベストです。コンビニやスーパーなどではおまんじゅうタイプのたいやきも売ってますが、液体につけるとすぐむにゃむにゃになってしまいますし、粉っぽさも足りないため、何よりおうどんの汁に合いません。冷凍のミニたいやきでも構いませんが、少々耐汁力がありませんので要注意です。

2.大事なのは、うどんに乗せる前にたいやきをオーブンで熱して、外側をかりかり、内側をほかほかにしておくことです。冷たいあんこのなかに熱い汁がしみわたるのは割といろんな意味で拷問です。

3.うどんの麺は、何でもいいです。さぬきでも細麺でもきしめんでもお好きなものを。汁の方は、薄めの合わせみそ味をおすすめします(だししょうゆとあんこはあんまり相性がよくない気が……)。おろしショウガを添えると風味があってなおよいでしょう。面倒な人は市販品で「日清 朝のめざましうどん」というものがあるので、それでもよろしいかと。

4.そしてたいやきの焼き上がりとうどんの出来上がりが同じくらいになるようにすればOK! うどんの上にたいやきを乗せて! これで無難に食べられるはずです!

わあい夢が叶った。というわけで、私ひとりが楽しい「たいやきうどん」の話なのですが、twitterで実験報告などをしていると、「森鴎外の饅頭茶漬けを彷彿とさせますね」というつっこみが入ったりも。そういえば確かに何か近しいものが……。翻訳家の甘いもの好きと何か関係があるのかも……と、さらなる妄想に発展しそうなところで今回はお開き。

(ちなみに正しい魔法名は「ダイ・アキュート」で、威力が二倍になるというものでした。調理・玩味は自己責任でどうぞ。)