地震と火山

冨岡三智

この間の10月26日に、インドネシアのジャワ島中部にあるジョグジャで、ムラピ火山が噴火した。ムラピ山は活発な活火山で、ほぼ年中噴煙を上げている山なのだが、今回の地震では、前王から山の番人を任じられていたマリジャン氏も亡くなったとかで、人々の打撃は大きいようだ。このムラピ山は前回は2006年5月にも活動が活発になって火砕流を起こしていて、同じ月にジョグジャ沖で地震も発生している。どうやらこのとき以来、ジョグジャは災害続きである。

ジャワの古都ジョグジャは、北のムラピ山、南のパラン・トゥリティス海岸を南北の軸にして、その中央に都市がある。ジョグジャは特別州になっていて、インドネシア独立後も、マタラム王朝由来のジャワ王家の君主が世襲知事として州を治めている。ジャワ王家の信仰では、北のムラピ山には男神ラトゥ・スカール・クダトンが、南の海には女神ラトゥ・キドゥルが棲んでいるとされる。

ジャワの王は、この南海の女神(ラトゥ・キドゥルというのは、南の女王という意味)と結婚することで王国を護る力を得るとされている。また、緑の服を着た人が海岸に近づくと海に引きずり込むとも言われていて(だから、ジャワ人は緑の服を着て海岸に近づくことはしない)、ラトゥキドゥルという名前はジャワでは有名だ。アブドゥラー・バスキという有名な画家もラトゥ・キドゥルの絵を描いている。

もう一方のラトゥ・スカール・クダトンというのは、ラトゥ・キドゥルほど人格化されていない。スカール・クダトンというのは王宮と言う意味なので、抽象的な王室神ということなのだろう。たぶん、絶えず噴煙を上げている、怒れるムラピ山への畏怖の念があるのだろう。

2006年の地震のときに、こんな小話があった。この地震は、ジルバブを被れと命じられたラトゥ・キドゥルが、怒って引き起こしたものだと。ジルバブというのはイスラム教徒の女性が髪を隠すために巻いているスカーフのこと。ラトゥ・キドゥルは土着信仰の女神だ。ジャワではイスラム教徒が9割くらいを占めているけれど、イスラム教は15世紀にもたらされて以来、土着信仰と混交してきたので、厳格なイスラム原理主義者というのはあまり多くない。だから、この小話の裏には、バリ島テロ事件以来激化してきたイスラム原理主義に対するジャワ人の嫌気が表れているのだ。

こんどの噴火に対して、人々はどのように言うのだろうか。