オトメンと指を差されて(26)

大久保ゆう

撮影一日目。晴れのち曇り時々雨。集合場所はときめき坂のてっぺん、時間になってもモデルとカメラマンはやってこない。いつものことなのであわてずコンビニで涼む。30分ほどして揃う。モデルの方はコーディネイトに手間取り、カメラマンの方はさっき連絡取れたばっかりだったので、どちらもやむをえない。

まずは近くの大型書店へ行って、本を物色。あれやこれやと表紙を見ながら一談義。お目当ての本はなかった。児童書コーナーでは休日のため読み聞かせが行われていて、我々のような動機不純の者が近づけない仕様になっていた。また、樹皮ハンドブックが高い評価を得る。ここで一冊購入されたが、結局撮影では使われなかった。

相当な時間を書店で費やしてのち、ようやく岸辺へ。散歩や読書をしている人がそれなりにいる。夏の日照時間が長いとはいえ、ぐずぐずしているとすぐ夕方になりかねない。身につけるアクセサリと手に持つ本を決め、早速岩場での撮影に。ちなみに通り過ぎる人は案外誰も気にしていない。

ところが予定していた写真を撮りきらぬうちに雨降り。通り雨だとは思うものの一時待避。せっかくなのでそのあいだに対策を練り、建物を使う方向にシフトする。ここでカメラマンが趣味の写真を撮り始め、本がフレームアウトしてしまう。いい出来なのが結構あるのだが、企画から逸れるので涙をのんで不採用。

雨が終わり薄く雲が残るなか、空の下での活動再開。ここで何を思ったかモデルに変なポーズや構図に挑戦させ始める。「本を読んでいる最中に何だか気になって眼鏡を拭く」というシチュエーションは我ながら訳がわからない。むろんのこと周囲の同意も得られなかった。夕方が来る前に無事必要な絵を作り終える。

そのあと書店へ寄ったときに気になっていたデパートのカピバラさん展へと全員で出向く。癒される。あるいは非実用的なグッズを買え買えと押し付け合う。そして地元商店街に出ていた夜店でビールを飲み軽い打ち上げ。うちの街にゴスロリ浴衣を着て歩いている人がいるなんて信じられない、ちょっと友だちになりませんか。

撮影二日目。晴れ時々曇り。遠い場所での夏祭り。当該祭の経験者がモデル一名だったため、そもそもの祭難易度の高さに戸惑う。ちなみに祭難易度というのは、歩きやすさ・食べやすさ・買いやすさ・見やすさといった指標からなる値であり、低い方が快適である。最近私が作った。大型の祭りはたいてい高めだが、今回は予想以上。

あまりの難しさにとりあえず祭りが盛り上がっているあいだに撮影を行うのは困難だと判断し、各自楽しむことに。モデルははしゃぎ、カメラマンはお気に入りの絵を探し、私は午前中に別件の用事があって疲れ果てていたためしゃがみ込んでうとうと。申し訳ないが頃合いのよいときに起こしてくれ。

メインの催し物が終わり、人出が少なくなり始めたあたりから撮影を開始。あまり時間もなく、それぞれイメージが沸かず勝手もわからなかったので、その場での試行錯誤を繰り返す。モデルへの無茶振りを我々は反省するべきかもしれない。よく耐えてくれました、心より感謝申し上げます。ごめんなさい。

警察の人に軽く何をしているのかと聞かれる。細かい説明をし始めるとキリがないので、美大生風な雰囲気を醸しだし、「作品を作っているんですよ」などと答える。いずれにしてもみなさん警備の方でいっぱいいっぱいなので、むしろ終始和やかな感じで会話が終わる。

そのあと駅前へ移動し、完全に勢いで金魚釣りを行う。その日使用した本の表紙が金魚だったからで、撮影中ことあるごとに「金魚があれば金魚があれば」とつぶやいていたからなのだが、祭りが終わっても屋台がまだあり、偶然その行為が可能な状態に行き当たったのである。しかし後日聞くところによると、すくい上げた金魚たちはその翌日急逝されたらしい。衷心よりお悔やみ申し上げる。

今度こそ打ち上げ。またもビールを頂く。前回同じ場所・同じ面子で飲み会を開いた折りには、その店の揃えるスイーツ×酒のコラボした飲料に挑戦し打ち倒されていったものだが、二の轍は踏まない。スイーツカクテルの恐ろしさを我々は身をもってすでに知っている。甘いものは甘いものだけで食べようよ、という結論。

というわけで、そんなこんなの成果はhttp://www.alz.jp/hon-girls.htmlまで。3ヶ月引っ張り続けた「本ガール」の始まりです。どうぞよろしくお願い致します。