アルビルでワールドカップ

さとうまき

ワールドカップで、日本が決勝リーグに進むことになった。おかげで、僕はイラクで、日本を応援することに。異国の人々の反応はどのようなものだろう。

北イラクのアルビル国際空港に到着すると、現場の加藤さんが出迎えてくれた。
「どうです。盛り上がりは?」
「それがすごくて、僕は見てないのですが、クルドの友達からたくさんおめでとうの電話がかかってきてすごい盛り上げってますよ」

日本とは異なり、それほどいろんなスポーツを楽しむわけではなく、サッカーの盛り上がりは格別なのだ。そんな様子を見ようと、早速アンカワという場所にあるカフェに行くことにした。この一角は、キリスト教徒が多く住んでいる町で、イラク復興の盛り上がりとともに、外国人にも住みやすいところで、彼らを目当てにした怪しげなバーなどもあるらしい。

こちらの新聞には、外国人の労働者を25%以内に抑えて、クルド人の雇用を増やすという行政措置がとられようとしているらしく、インド人や、中国人が活発にビジネスをしており、中華料理屋にいくと、若い中国人のお嬢さんだけでなく、エチオピアからも女の子が働きに来ているのだ。イラクといえば、日本では、危ない国と思われているが、世界はたくましく生きている。

さて、カフェは、「ワールドカップ放映中」と看板が出ているにもかかわらず、ほとんど人がいなかった。日本とパラグアイというどちらも遠い国の試合とあってか関心がないのだろう。あるいは、皆、家でTVを見ているのだろうか?

昔は、ワールドカップの試合は、TVはただで見られたのだが、ここ中東では、放映権の問題で、お金を払わないと見られない。ヨルダンでも100ドルほど払わなくてはいけないから、貧しい人たちの関心はどんどん薄れていく。タクシードライバーに聞いても、「サッカーねぇ、仕事があるからなあ」とあまりのってこないのだ。

時間があって金のない人たちは、カフェやパブリックスペースに見に来るので、それなりに盛り上がっている。しかし、イラクはまだ国が安定しないから何でもあり。地方に乱立したTV局が勝手に映像を流しているらしい。だから、みんな家族でゲームを楽しんでいるのだろう。

日本とパラグアイの試合は白熱し、両者一歩も譲らず、延長に入ってもゴールが決まらず、PK合戦にもつれ込んだ。パラグアイ、日本と一本ずつきめ固唾を呑んで見守っている瞬間、映像が落ちた!

え! 実は、今回このような事が良くあるらしく、放映しているアルジャジーラによると、誰かが妨害しているというのだ。確かに、いいところで切れてしまうと民衆の不満が爆発し、その矛先が政府に向けられると、政権崩壊もありうるわけだ。

サッカーの力は、我々の想像を超えている。「神のみぞ知る」世界なのかもしれないな。映像が復活したとき、日本は、敗れた。加藤さんの電話もならなかった。さびしい夏が始まった。