畑から歩っちゃー(ハルカラアッチャー)

仲宗根浩

駐車場に入ると駐車場の大家さんの軽トラックのライトが点いたままだ。大家さんのところに行くと、おばさんが出てきた。ライトが点いていることを伝える。
「あ〜、はるからあっちゃーねぇ、ありがとうねぇ。」
「はる」は畑。あっちゃーは歩くひとやものみたいなもので、その軽トラは大家のおじさんが畑仕事に行くときに使っている軽トラだから「はるからあっちゃー」という呼び方になっているみたいだ。なんか久しぶりに方言の個人的に使う呼び方を聞いておもしろかった。他の方言でもそうだろうがこの微妙なおもしろさというのはそのときの状況もあるし、それを言うほうのキャラクターもあるから、その場にいないとおもしろさはわからないもの。

二度目の台風が近づいたときに、久しぶりにアスファルトの上を水しぶきが走るのを見た。風はかなり強くなっていた。おさまった翌日、車を出そうとドアを開けシートに座る。ドアを閉めようとすると半ドアでちゃんと閉まらない。いつもより強く閉めると、ドアはちゃんと車におさまる。何回かドアを開け閉めする。おかしい。そのまま用事を済ませ家に帰り、奥さんに車のドアのことを話す。「やっぱり。」と言う。前日、子供の部活メンバーを迎えに行った先で、ドアを少し開けたところ突風でドアが尋常じゃないくらい開いた、という。状況をプロレス的に想像すると、ペールワンが猪木に腕ひしぎ逆十字を極められたときぐらいにあらぬ方向に曲がったのだろう(しかし完全に極めているにも関わらずペールワンはギブアップしなかった。特別な間接を持っているらしいけが、その後アームロックを極め猪木はペールワンの肩を外した)。修理屋さんに持っていく。ドアがついている部分が曲がっているらしい。ヒンジも交換しなくてはいけないかもしれないが板金担当が見て判断するが、今日は板金担当が休み。翌日は胃カメラを飲んだあと仕事だから、翌々日の休みの日に持っていくことにした。修理は思ったよりはやく、板金だけで完了した。保険はきかない。修理代は最初のおおまかな見積もりの半分くらいで済んだ。ちょっと近づいただけのちょっとした台風被害。本格的に上陸したら雨はアスファルトから降る。どこから看板が飛んで来るかわからない。一度仕事帰りに車で走っている目の前を大きなブルーシートが横切ったこともある。隣の家の屋上にそのまた隣の家の空の水道タンクが転がったこともある。台風の目に入ったときの静かな時間、五、六年は経験していない。

もう、家の中ではクーラーも必要なくなり、扇風機の出番も少なくなる。海に泳ぎにも行けないまま夜に帰ってきた玄関前、左側の手すりに大きめのゴキブリがとまっている。ちょっと見ていたら飛んでいった。ゴキブリが飛んでいくのを見るのもずいぶんとひさしぶり。