泥濘クロニクル

くぼたのぞみ

ぬめり、ぬめる、泥濘の
田んぼの土こねた泥に
埋めようか
水はって溶かそうか
経文つぶやく
筵敷いたリヤカーの
握りの錆は

ぬめり、ぬめる、泥濘の
冷たい足の指
と指
のあいだに
滲み出る
とろりとした
青い土よ――「よ」はいらないな

内地の土と、内地の泥に
思いつのらせた
もと水呑百姓の
開拓植民の
住みつかなかった子どもが
燃やす
扉あかない納屋と
理由の数々

曲がる腰の痛み吸いあげ
稔る穂
のきらめく、ゆらめく
八月の田んぼの空に
名はなくて
ぬめり、ぬめる、泥濘の
名づけ替えられた
土地の声に
耳澄ましても

なに・いま・さら

困惑顔かな
ピンネシリは