「本をめぐるアート」を収集している「うらわ美術館」の収蔵作品の中で最も小さいのは、天地40mm×左右61mm、厚さ4mmの塩見充枝子「顔のための消える音楽」(2002)だそうである。作りは、口もとだけの写真41枚をホッチキス留めしたパラパラ漫画のようなもの。元々は、塩見充枝子の「顔のための消える音楽 微笑む→微笑を消す」というスコアをもとにオノ・ヨーコを撮影したジョージ・マチューナスのアイデアで、印刷までされていたものを2002年に”本”のかたちにしたらしい。
40mm×61mm×4mmといえば名刺よりも、さっき指に貼ったカットバンより小さい。豆本の大きさの定義についてくわしくは知らないが、コレクターだった市島春城(1860-1944)によると縦2寸(約60mm)以下を豆本とし、自らの収集は縦3寸5分(約106mm)×幅2寸5分(76mm)、およそ葉書の半分A7版(100mm×70mm)を基準としたらしいから、時代が時代なら「顔のための消える音楽」も対象にはなったはずだがどうだろう。
ミニチュア・ブックの歴史をまとめた『Miniature Books ―― 4,000 years of tiny treasures』(Anne C. Bromer/Julian I.Edison 2007 Abram)には日本の豆本についてもちょっとだけ触れてある。稀覯本を扱う書店経営者と豆本コレクターの共著で、215ページ全4色、彩飾写本、工芸的な本、宗教、暦、子どもの本、極小本、プロパガンダや趣味の本、オブジェやアート作品としての本など広範囲にわたり、260点以上の写真が美しく、添えられた指がなければミニチュアとしての大きさを感じさせない。
小さい本は眺めるほどに美しいしかわいらしいと思うのだが、私自身は作る気になれない。細かい作業が苦手だからというのが第一。だから製本のワークショップで「豆本を作ってみたい」と言われるとちょっと困る。そんなときに資料として出すために手元に置いてあるのが『Miniature Books』で、やおら開いて驚嘆を聞いたのち、「本の作りは小さくても大きくても同じだから、まずは文庫本くらいの大きさで作って構造を把握しましょう」などしたり顔で言うのだ。でも、ほんとなんですよ。
初めて”豆本の世界”をのぞき見たのは青山の「リリパット」だったろうか。”製本”の延長ではなくて、本のかたちをした小さくてかわいらしいものを愛でるという感じだったと思う。とにかく小さいから、材料も手間もさほどかけなくても試してみたいことはなんでもかんでもできそうな、根拠はないが無限に広がる夢や予感で胸がときめきまくったものだ。思いつく材料を買い集めて作り始めたが、ページが開くしくみなど考えもつかないからホッチキスで留めたりボンドで貼ったり。結果、装飾だけ異様に凝ったただの”塊”ができてがっかりしたが、同じような経験をお持ちのかたは結構いるんじゃないだろうか。