製本、かい摘みましては(33)

四釜裕子

ある大学の図書館が主催する年に一度の製本講座を担当して3年目、今年は10月開講で、ちょうど先週終わったところです。学生や図書館のスタッフのかたにアシストしていただいて、参加者はだいたいいつも15人くらいでしょうか。卒業生や近隣のかたの参加も増えてきて、運営する私たちにも段取りだけにモウマイしない余裕がやっと出てきたように思います。

毎回その日の作業の説明とデモはわたしが一度はやりますが、あとはそれぞれのテーブルで、アシスタントを中心にして、先にできたひとがまだのひとにこうやったよと話しながらまた自分でもやり直すなどして進めていきます。先にできたひとには、その場で早速先生になっていただくわけです。ひとりでこっそり仕上げて悦に入っているひとを見つけたら、「はい、ここにいい見本がありますよー」と呼びかければ、あとは自然にそこで談義がはじまるものです。

少し前に他の講座でこんなことを言われました。「先生が言った通りにしたのにうまくできない!」。器用なひとでしたので、失敗したことがよほどくやしかったようです。応えました。「馬鹿だなあ、初めてやるんだからそうそううまくいくわけがないじゃないか。わたしなんかどれだけ失敗してきたことか。そんなに簡単にうまく作れるわけがないでしょう」。かつてわたしが習っていた製本教室ではありえない会話です。そこはいわゆるカルチャースクール系でしたので、生徒が決して失敗しないように、一人一人に丁寧に教えてくれました。どうしてもできないところは先生が仕上げてくれたほどです。それはそれでとてもよかったのですが、図書館の講座を持つにあたってわたしが考えたことはただ一つ、失敗のない作品を仕上げてもらうことではなく、失敗しない方法を考える場所にしたいということでした。

紙を貼る説明をするときにも、ノリの説明はあまりしません。
指で塗るかハケを使うか、水で薄めるのか、薄めるならどれくらい水を入れるのか。かなり大きな面積を人差し指だけで器用に塗ってしまうひともいましたから、それぞれがまず自分のやりやすい方法を探して試してもらいます。資材の用意についても、必要な分量をなるべくそれぞれで切り出してもらいます。「糸は何センチ必要ですか?」と聞かれたら、「どれくらい必要でしょうねえ。考えて切ってください」というふうに。糸の運びが頭に入っていれば、どれくらい必要か、考えることができるのですから。

さてそんなことが、参加するみなさんにとっては面倒なのか面白いのか、わかりません。でもわたしとしては、それぞれが別々の方法でノリを塗っていたり、先にできたひとがまだのひとに説明している様子を見るのがとても楽しい。失敗するともう一度やってみたくなるもので、講座が終わってから自宅で作り、図書館のスタッフに見せにきてくれるひともいるようです。なにしろここの図書館には製本で使う基本的な道具は揃っていて希望者には貸し出しもしているし、スタッフのほとんどが一度は講座を受けていますから質問にも応えられるのです。なんて魅力的な図書館だろう、と思います。