福寿草

大野晋

日本の新春を彩る代表的な縁起物の植物といえば、松竹飾りに南天、そして鉢植えの福寿草ということになるだろうか。雪解け後、すぐに花茎を伸ばし、先端に黄色の花をつける。古来より園芸に用いる植物だったが、最近は、園芸ブームで、特に自生地からの盗掘が後を絶たないらしい。しかし、私には窮屈な鉢植えの福寿草よりも伸び伸びと葉を伸ばした大きな自生地の福寿草の方が春らしく感じられる。
日本に自生する福寿草を分類すると4種類になるらしい。詳しくは論文を見るしかないが、植物の世界は様々な同種、異種を抱えるからひとによって見解が異なることもめずらしくない。かく言う私は「まとめちゃえ派」で細かな違いならまとめてもいいのではないかなどと思う。やがては遺伝子の情報も活用して同種異種の判断もつくかもしれないが、細かな形態の変化もなんらかの遺伝情報の変化が引き起こしているのだとすればそうそう簡単に片付かないのかもしれない。

特に、春先、真っ先に咲く福寿草は同じ生育地でも株によって咲く時期が異なるため、細かな形態の変化が遺伝情報として残りやすいのだろう。今後も、違う、同じだと言う応酬は続きそうだ。
正月に鉢物が咲いているのを見るのも好きだが、やはり大きく育った野に咲く方が好ましい。関東では露地栽培で2月から、もっと寒い信州では平地で3月。有名な姫川源流では5月の連休に盛りを迎える。ならば、鉢植えのこじんまりとした姿を見ながら、まだ遠い初春の明るい落葉樹林の下に広がる福寿草の黄色のじゅうたんを思いを馳せよう。