142 詞(ツー)

藤井貞和

みどりばをまどさきに、にわのおもてに、
日のあしに、あめあとのみずたまりに、
きみのひとみに、さしかけよう、
葉陰をつくろう。 葉ごとに、芯ごとに、
むしのいきに、あおいきに、
といきになって、きみを守ろう。

かなかなに、つばさのあるいのししに、
かわなみに、なつぐもに、はしひめに、
はう虫眠る、たたみに、はじとみに、
孔雀のはねをひろげて。 蛻けに、
はかなく、つばさをもがれて、木のもとに、
脱ぎ捨てられたことばのあかしに。

葉陰よ、霊獣の雨をしたたらせ。
離人症のきみが、独り身をあいし、
ぼくをけっして愛してくれないと告げる、
それでも天敵に、うたをわすれない、
陽気にね、あいするということ

(晩夏のいちにち、つくつくぼうしがはいりこんで、しかも啼き出したのですが、クーラーのかげやら、キッチンのどこやら、啼き弱るまで見つかりませんでした。きみ=つくつくぼうしに捧げる愛の歌。〈詞〉は宋代の詩だそうです。ツーツクツク。)