「寒い日本を抜け出して、ドバイでリゾートを楽しみましょう!」というわけで今年一月、私はバグダッドからドバイへと向かった。ドバイはUAE(アラブ首長国連邦)の一つ。
UAEといえば、石油と天然ガスで潤っている国という印象が高い。最近では、ドバイやアブダビ経由でヨーロッパに旅行に行く日本人も多く、観光にも力を入れている。金持ちには、とっても楽しい国! 贅沢につきものなのが電気。石油だけじゃ賄いきれないとなり、UAEは原発に舵をきった。
今回のミッションは原発がらみ。この手の話には危険が伴う。助っ人が必要だ。最近では、日本の外務省も公然と仕事を依頼した元テロリスト?のゴルゴ13に依頼したのだ。外務省は、安全対策に関してゴルゴ13に従うように勧告している。
昨年の12月、ヨルダンのとあるホテルの薄暗いバーで。
G13「話を聞こうか。」
「急速に経済発展し、電力需要が伸びたために、原子発電が必要という話になり、2009年には、韓国が受注。当初2017年から一号機が稼働する予定だったが、2018年に工事は終わったものの稼働は2019年末もしくは2020年まで遅れるとのことです。
安倍政権は、2013年にUAEとの間で原子力協定に署名しており、韓国が原発建設を受注した後も、日本企業がかかわれるように動いています。そこで、気になるのは、福島の教訓がどのようにいかされているかです。リスクは自然災害だけではありません。UAEは近年、イエメンの内戦、シリアの内戦に積極的に介入し軍隊を送っています。
イエメンのイスラム教シーア派武装組織「フーシ」は2017年12月3日、UAEにある建設中の原子力発電所に向けて「巡航ミサイルを発射した」と発表しました。UAE当局は即座に「ミサイル攻撃を受けた事実はない」とフーシ側の主張を否定していますが、今後このようなテロ攻撃が起こる可能性が非常に高くなっています」
G13「要件はなんだ」
「もし事故が起きた時、福島の教訓は非常に有益なものになるでしょう。そこで、今回福島10の教訓ブックレットをUAEの政府機関や、NGOに紹介してほしいのです」
「今回の任務には、M16 は必要なさそうだ。私の仕事ではない」
といって男は去っていった。
結局私は単身、UAEに潜入した。入国審査で、「渡航の目的は?」
「あ、あの。アジアカップサッカーで日本の応援に来ました! ほら、日本のユニフォーム着てますよ」といったような仕込みもしなくていい。ここはイスラエルではないのだ。何も聞かれずに無事に入国。
UAE原子力委員会(ENEC)と、原子力規制庁(FANR)に連絡を取っても返事が来ない。もう飛び込みでいくしかない。規制庁に行く。UAE人のおねぇさんが出てきて、言葉は慎重だったが、アニュアルレポートなどを持ってきてくれて、一緒に写真撮影にも応じてくれた。「なんでも相談してください。上と相談して答えます」とフレンドリーだった。
その足で、原子力委員会を訪問する。ここは砂漠中にある秘密基地ぽい。受付で待たされるが、外国人が出入りしている。対応しているのは、国連で働いていそうないかにも頭の切れそうなヨーロッパの女性。目つきが半端なく鋭い。しばらく待たされたが、アラブ服をきたUAE人が出てきて対応してくれた。
「UAE政府は、福島事故後、「福島の教訓」を学ぶために、2012年に20人ほどのチームが福島を訪問しました。そして、2年間かけて、福島の教訓を生かし、安全な原発建設にこぎつけたのです。神は偉大なり! 現在、1号機工事が終わり燃料棒を入れる直前です。
2号機は、93%まで完成しており、一年ごとに3号機、4号機を完成させる予定。完成すれば、25%は原発で賄うことになります。これは国家プロジェクトですよ! 安全第一、利益は二の次です! 原子力教育も力を入れております。事故のことばかり伝えるのは、住民を不安にする。原子力が安全であることを理解してもらうことが重要です。」
あのう、イエメンからのミサイル攻撃があったそうですねぇ
「彼らのデマでありそのような事実はないです」といい、テロのリスクマネージメントは、軍隊が担当しており、対岸のイランとの緊張関係もあってか日本よりすすんでいる感じもした。
「何よりもUAEの原発事業は透明性を持ってますよ。」
当然ながら押し切られた。
UAEの環境団体を訪問する。いくつかの環境団体はあったが、グリーンエネルギーとか、環境にやさしいうんちゃらかんチャラを掲げていて、それはそれで素晴らしいのだが、原発に面と向かって言及するのは皆避けていた。
これといった関係づくりは成功せず、300冊ももちこんでしまったブックレットは、政府機関に数十冊配っただけにとどまったのだ。環境団体に配ってもらおうと思ったが、拒否されてしまった。
しょうがないので、友人のつてを頼んで、出稼ぎのシリア人に荷物を預かってもらうことにした。この人は、シリア内戦が始まってから家族でUAEに来たらしいが、ビザが切れて、妻と子は、レバノンへ引っ越したが、彼だけ残って仕事を探した。しかし、警察に捕まって牢屋に入れてしまった。首長の恩赦で釈放され、とりあえずレストランで働いている。お金のためならどのような仕打ちを受けてもUAEにいるべきだという。
「友人は原発?とかの建設で働いているといってたなあ」
UAEには5万人くらいのシリア人がいるそうだがだれ一人、難民ではない。カフェで出会ったシリア人は、アレッポ出身だという。10年前からUAEで働いている。一度もシリアには戻っていない。
「ということは、内戦前からだね? まだアレッポは危険なの?」
「そうじゃない。そんな、金があるなら仕送りをするよ。」というのだ。ともかく働ける限り働いて家族や親せきのために仕送りをしなければならない。家族の離散は、内戦ではなく、経済だった。UAEの人口の87%は外国人だからUAEなんてどっちでもいい。金がもらえれば一生懸命働く。ただそれだけだった。