秋はマコモの旬だ。そろそろ終わりに近いが、今年はまだ入手可能だ。いつもの有機移動八百屋さんで売っていたので、すかさず買う。マコモを料理するようになったのは、ここ数年のことである。最初はいったいどうやって食べるものなのか、分からなかった。皮をむいて、炒めたり焼いたりして食べるとあっさりしていておいしいですよ、と教えてもらったが、その時は野菜炒めなどに入れて食べたが、ふ~ん?と言う感じだった。
マコモ(真菰)はイネ科マコモ属の多年草で、別名ハナカズキ。水辺に群生し、大きくなると2メートル近くに育つ。じかに見たことはないが、写真で見ると大型のイネ、というかサトウキビみたいな姿である。縄文時代から食べられていた思われ、万葉集にも歌われる。現代でも出雲大社の神事に使われたりしている由緒ある植物。
新芽に黒穂菌が寄生することで新芽の根元の茎が肥大して柔らかくなり、そこをマコモダケと呼んで人間がいただく。茎がよく太って来ると黒穂菌が繁殖して内部に黒い点々が出現れることもあるが、問題なく食べられる。近年はほとんど食材として流通に乗ることはなかったが、食物繊維も多いことから健康ブームで自然食系の店、高級スーパーなどで売られるようになった。
初めて食べた翌年、また有機八百屋さんにマコモが出たので、何となく買った。そのときは他の野菜と一緒に炒めて食べると、淡白だがしみじみおいしいな、と思った。濃い味のものになれていると、つい見過ごしてしまいそうな味であるが、ゆっくり食べているとなかなかいい感じ。そして、固い外皮とピーラーでむいた茎の内皮を捨てようとして、ふと思いとどまった。
黒穂菌が繁殖して茎が肥大する、というのはふしぎだが、皮には黒穂菌をはじめ、よさげな菌がたくさんついていそうである。そのころフルーツの皮や芯に砂糖と水を加えてつくる果実酢づくりにはまっていたのだが、このマコモの皮でもいい酢がつくれるんじゃない?
さっそくメイソンジャーに水1リットル、砂糖4分の1カップを入れよく溶かし、皮を投入。浮いて来るので小さいガラスの蓋で上から軽く重しをする。メイソンジャーのふたは外してガーゼで虫除けのふたをする。ときどきふってやっているうちに、ぷつぷつ発酵してきた。1週間で皮を取り出すが、すでにもうすっぱい酢の匂い。これはいい感じに発酵しているなあ。
皮を取り出したら、毎日1~2回ビンを振って上に白い膜がはらないようにする。白い膜はカビではなく、酢酸酵母の膜なのだ。これをカビと思って失敗だとする人も多いが、けして失敗ではない。かき混ぜてやらないと嫌気性の産膜酵母がもろもろと発生して表面に膜のように増える。まあ、これを放置していても嫌気性の菌が酢を作ってくれるのだが、空気を入れてやり、膜が張らない方にする方がよりすっきりした美味しい酢が早くできる。
2~3週間ほどして、かなり酸っぱくなっていたらガーゼなどで濾して、ビンに詰めふたを閉めて冷暗所に置いて熟成させる。甘みが残っているような場合はもう少し空気にさらしたまま置いておく。
半年ぐらいして味を見ると、パイナップル酢のような臭みもなく、りんご酢のようなりんごのいい香りもないが、淡白でしみじみとしたいい酢になっていた。この果実の皮や芯でつくる酢は、市販の米酢などより、すっぱさが少ないので酢の物をつくるときに重宝している。ソーダで割って飲んでも美味しい。
マコモを食べていると、その淡白なうまみに、ビルマのインレー湖のほとりでみつけた豆の煮汁を煮詰めてつくるポンイエージー(日本では平安時代の文献にも登場する豆いろり)を思い出した。いわゆるダシの素的な使い方をされるビルマの調味料なのだが、これを実際に使ってみると、あれっというほどうまみが少ない、いや・・淡白だ。現代の濃い味付けになれていると、なんだよ、これ、となってしまう。
マコモもゆっくり味わって、うまみを探さないとおいしく感じない。ばくばくっと飲み込んでは存在を感じられないのだ。縄文時代とか平安時代とかの食生活というのは、おそらくこういう淡白なものだったんだろうなあ。
北米アメリカにはワイルドライス、という赤黒いお米に似た穀物のようなものがあるが、何とワイルドライスはマコモの一種、アメリカマコモであった。先住民族のインディアンの伝統的食べ物で、やはりこれも食べるだけでなく神事的な使われ方もされる。マコモはどうやらスピリチャルな神聖な気配をまとっているのかもしれない。
たしかに、マコモはなにかいい感じだ。黒穂菌だけでなく、おそらく人間に有用な菌がたくさん共生している植物なのだろう。そして食繊維も多いから、有用菌とセットで腸内細菌も大喜び。どこかで見かけたら、食べてみてください。縄文時代の狩猟採集民になった気持で、ゆっくり味わってね。