眠っていた楽器を起こす 弐

仲宗根浩

箏の説明としていきなり「巾」という言葉が出てきたらまあ不親切。箏は十三本の糸が張られている。弾くほうから遠い糸が一で十まできて十一から十三は斗(と)、為(ゐ)、巾(きん)となって箏の縦譜では表記されている。で糸の太さを表す匁は重さの単位。重さの単位が太さを表すのは糸の長さが三メートル六十センチ。この長さから自分なりに推察すると山田箏、現在使われている箏は生田流、山田流ともに六尺の山田箏なのでこの倍の十二尺からかなと。絹糸は元の糸一本から十本の箏の糸が取れてこの十本の重さが十七半、十八、十九匁と分かれ十七絃になるとメーカーによって違いはあるが八十から三十まで。それから七十年代に入ると絹糸はすぐ切れるため化学繊維を原料とした糸が開発され現在にいたるがそれを作っていたメーカーが今年いっぱいで廃業とのことでまあ困ったこと。演奏者がいても糸やその糸を締める職人さん、楽器を作る職人さん、その他様々な備品を作る職人さんがいないと伝統楽器はたちいかない時代にいよいよ入った。三本撚りの十九の糸が張られた箏はしばらくは気が向いた時にでもふれてみよう。昔レッスン待ちに切れた時、本番前に先生がこれ切れそうと言われて時に締めていた。

で、しばらく経ったある夜に黒いギターケースが目に入る。中にあるのは鉄のボディで木のネックのリゾネーターギター。ケースから出すと錆も無い。近所の楽器屋にずっとあったものが誰も買う人がいないためか通う事にどんどん値が下がって当時住んでいたアパートの家賃に一万円くらい足せば買える値段まで下がったところで購入したもの。Dのオープンチューニングで七味唐辛子の空き瓶を小指にはめてぐいんぐいんとスライドギターもどきで遊んでいた。これは弦があったので交換してしばらく遊ぶが重い。ケースにもどす。

次にあるのは一番長い楽器、七尺三寸の十七絃。身長でいえば歩く人間山脈と言われたアンドレ・ザ・ジャイアントよりちょいと低い。十何年かぶりに柱をかけて調弦をし爪をつけて弾いてみると鳴る。予想以上に鳴る。歳とるとこの長さが扱い辛い。この楽器を作った職人さんはもう亡くなってしまったが旧知のお筝屋さんが後を継いだ方とつながっている事がわかる。すると十七絃は糸巻のピンがついていてそのピンの形状が特殊なので一般に普及している形状に変更可能か、できれば楽器の寸法もジャイアント馬場の身長よりちょいと高めの七尺にできるか確認して貰うと出来る、との返答。それにいくらの費用がかかるかわかると銀行に向かい定期預金を解約し楽器を職人さんへ送る別の自分。送る前に運送中に破損しやすいものはなるべく外す。ここら辺は若いころお筝屋さんでバイトした経験が役に立つ。七尺にするためどこをどうするかわかると変な欲が出てきて十八絃にできるんじゃないか?可能かどうか聞いてもらうとお値段そのままでいたします、との返事がなのでそれでお願いする。何を血迷ったか十八絃が来てどうする?
ちょっとした修理、改良ほとんど完了の連絡。ほんとうにどうする?次は黒いケースに入ったギターが俺を出せと、、、。